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Lost fragment ーロスト・フラグメントー  作者: Konori
第2章 黒翼島跡地編
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疑念(5)

「殿下?どーしたの、ンな怖い顔して」

「その呼び方はやめろ。

リークでいいと前にも言ったろう」

「や、あんた一応王子様だし?オレなりの遠慮ってやつ?」


 アスベル私邸の廊下、館の主の部屋の前で今から扉を殴り破らんばかりの怒気を放っていたリークに、紺髪(こんかみ)の珍客はおどけた様子で声をかけた。


「遠慮になっていない。

そもそも礼儀知らずは、初対面の時から露呈(ろてい)しているのだから、今さら必要ないだろう?

父上や母上の前なら獄舎行きだがな」


 ため息混じりにリークが返す。


「お前こそ随分珍しい場所にいるな、奴からの呼び出しか?」

「いんや、オレの用事。

こないだ妙な奴に襲われてさ。

多分ギルドじゃ手に負えねぇから、探りモノの得意そーなあんたの兄貴に情報渡しとこうと思ったんだ。

あんたは?」

「奴に吐かせたい事がある」

「吐かせたいこと、ねぇ……あいつ、言いたくない事はあんたが剣向けても言いそうにないけどなぁ」

「偶然にも攻撃要員が一人増えてくれた」

「何?オレにも関係あんの?」

「ああ」


 低く言うとノックもせずに扉の取っ手に手をかけ、力任せに押し開いた。


 ゴヅッ!!

 重い扉が高速で壁にぶつかる鈍い音が室内に響く。


「……そろそろ、扉と壁が壊れた時の修繕費を、騎士団の経費から引いて積み立てようと思うんだが、どうかな?」

「原因は貴様の言動行動だ。手足あたりに直接破砕を当てても構わないなら考えてやる」


 その不機嫌を体現した物言いに、その兄はやれやれと軽く肩をすくめた。


「ラグ君も久しぶりだね。1日以上依頼完了の報告がなかったそうじゃないか」


「ホント気味悪ぃ。あんたいくつ眼と耳あんだよ?

ま、今日はその行き過ぎた覗き見能力を借りたくて来たんだけどな」


 皮肉たっぷりに、頼む側とは思えない態度でラグが言う。


「私の話は長くなるかもしれん。先に済ませていいぞ」

「サンキュー。

んじゃ、遠慮なく」


 リークの言葉に頷き、ベルトのポーチから投影水晶を取り出してアスベルに投げた。

 受け取った手がそれを回して、記録された像を呼び出す。


「?」

「おい、絵が下手にも限度があるぞ」


 出てきた黒い人型としか形容できない画像に、白銀髪の兄妹が揃って眉をひそめた。


「本当にこんなのだったんだよ。

赤い太刀みたいなのを、化け物じみた速さで振り回してやがった。

あっちが退かなきゃ、マジでオレの首が落ちてたかもしれねぇ。

王佐殿ならこれだけ特徴的な奴、探すのにそんな苦労はしないだろ?」

「この人物を私が探さねばならない理由が見つからないね?」


 アスベルの言葉に、ラグが軽く息をつく。


「そいつの正体知れたらなって程度だから、別に土下座してまで頼む気はないぜ」


 寝首を掻きたい気もあるのだが、物理的にそれが難しいことは自分が一番自覚している。


「特にあんたは色んなトコから恨み買ってるだろうから、忠告のつもりもあって持って来たのさ」


「忠告?」


「あの黒巻き野郎、別の奴狙って来たらそこにオレがいたって感じだった。

元々あの場にいた奴追ってきた感じにも見えなかったし。

で、引っ掛かったのが『一人の気配からその縁者を辿る』って月の術」


「『侵径探査(しんけいたんさ)』のことだね。それを使っていたと?」

「だとすれば――」


 ラグの言わんとした事に気付いたリークの顔をが強ばる。


「使ってたかどうかははっきりしねぇけど、そーゆー事さ。

誰かの縁でオレに当たるなら、その元があんたらでもおかしくないだろ?

今までの仕事がらみとか、ギルド連中って可能性もあるけど、あんなのから目ぇ付けられそうな可能性は薄いからな」

「ふむ」


 アスベルも顎に手を当てて頷いた。


「君の勘を信じて調べてみよう。貴重な情報提供、感謝するよ。

……リーク」

「分かっている」


 剣の柄を指先でトントン叩きつつリークの翡翠の目が伏せられる。


「後で騎士団にも通達しておけば良いのだろう?青毛が手こずる腕なら無視はできんからな」


 数秒の沈黙。


(オレ、帰ろうかなぁ……)


 自分の話の間なりを潜めていた隣の青年の怒気が、再び膨れ上がるのをラグは感じ取っていた。


 前の机に座る男が気付かないはずもなく、苦笑いを浮かべる。


「ところでリーク、君は何でそんなに怒っているのかな?」

「白々しい。

私が母上に話を訊きに行った事ぐらい、知っているだろう?」


 押し殺した声。剣の柄に置かれた左手が柄を握る。


「私へのあてつけなのだろうが……フェリオンにも困ったものだ。君たちを巻き込んで喜べる性格でもないだろうに」

「フェリオンの言葉はきっかけにすぎん。私自身が常々不可解だと思っていたんだ」


 視線が静かにぶつかる。

 瞬きすらせず兄の顔を睨んだまま、リークは疑念を吐き出した。


「単刀直入に聞く。宵闇(よいやみ)は何者だ?

それと貴様、私に何をした!」


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