疑念(4)
暗闇に浮かぶ白い回廊で、宵闇は先を歩く自分を追いかけていた。
「おい待てよ!止まれって!!」
(また、変な夢だ)
走って追いかけるが、目の前の自分は、まるで蜃気楼の様に近づけば遠ざかる。
(何なんだ一体)
これが夢だと言う自覚はある。が、前にあの『俺』と会ったのは多分現実だ。
例え夢の中であれ、目の前に現れたのだ、聞きたい事は山ほどある。
不意に前を行く宵闇の足が止まる。
走って追い付くと、目の前に巨大な石盤が建っていた。
真っ白の、真ん中に縦一筋の境目がある、門のような建造物。
だが、表面に太い血管のようなものがいくつも浮いており、どこか禍々しい。
『まだ、開いていないな』
ソレに片手をあてながら、自分と同じ姿が同じ声で呟く。
「なぁ、このデケェ門みたいなのは何だよ?
大体お前何なんだ?
何で俺と同じ顔してんだよ?
遺物の事とか知ってんなら教えろよ!」
苛立ちを隠さずに問いを重ねる宵闇に、初めて相手が反応を示した。
『俺は、力に残されたただの意思。
これの先がが何に繋がっているかは俺にもわからない』
「はぁ?」
『だがこの門は決して開いてはならない。それは覚えている』
「何で閉じてるのかはお前も知らねーのか?」
『言っただろ?俺は意識の残存。思い出すべきなのはお前自身。』
指が顔に突き付けられる。
『迷うな。強く強く願えばあるいは…………』
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「はい、お礼。
いつも助かるよ宵闇君。いっそのことウチの専属にならないかい?」
「買いかぶりすぎですって。俺程度ならいくらでもいますよ」
フェルガリアから少し南東の中規模都市・トゥニス。
満面の笑顔で背中を叩いてくる依頼人の男に、宵闇は曖昧に返す。
「買いかぶり過ぎなもんか。おかげでこっちは安心して仕事ができる」
「ありがとうございます。
でも、獣の巣を見せ物にすんのは危ないから少なくしてくださいよ?」
苦笑しながらつくづく、得意先からの簡単な仕事でよかったと思う。
トゥニスの街は移動塔が無いものの、フェルガリアから近く、少し離れた所に港もあるため人の往来が盛んだ。
そんな中出来たのが金持ちや他島民をターゲットにした観光業、中でも人気があるらしいのは珍獣見物と言う名の獣の巣巡りで、客が危険にさらされないようにするのが宵闇の仕事だった。
ぶっちゃけて言ってしまうと宵闇の場合、客の通る場所の周りに黒線を張っておくだけで事足りる。
(盗賊団とか暗殺者相手だとヘマしてたかもな)
別に仕事に手を抜いた訳ではないが、気持ちは浮ついていた自覚がある。
遺物の事とか
昨日の夢とか……
原因の心当たりなど、有りすぎてあまり考えたくもないが。
「どうかしたかい?」
依頼主の不思議そうな視線に、宵闇は「いえ」と首を振った。
「最近少し忙しくて。一仕事終えたら気が抜けちまっただけです」
「そうかい?無理はしないでくれよ?」
「ありがとうございます」
雑踏に消えていく依頼人達にひらひら手を振って見送り、足を街の門へと向けた。
「明日はあっちの方だな……何もなけりゃいいけど」




