疑念(1)
「アスベル様、セリシアです」
フェルガリア郊外に建つ白煉瓦の邸宅。
扉の外からの声とノックの音に、白い法衣の男はもたれていたソファーから身を起こした。
「ああ、入ってくれ」
応えると、扉を開けてアッシュブロンドの髪をポニーテールにした長身の女性が静かに入ってくる。
「お休みの所申し訳ありません。彼の事での定時連絡が」
「何かあったかい?」
「大きな動きは特に。
ただ、ランドル卿が宵闇殿の事を気になると言って第二翼島に帰ったと」
「ほう」
無表情に書類を読み上げるセリシアの言葉に、アスベルは面白そうな顔をする。
「帰る直前、リーク様にその話をしていた様ですが、いかがされますか?」
「他の国にまで追う必要はない。
彼の気にしている事に関してなら大丈夫だ。昨日会ってすぐ問い詰められたよ。
多分、私がはぐらかしたのが気に障って自ら確かめる為に宵闇君に近づいた……と言う所だろうね」
一人納得した様に体の前で指を組む主人に、青紫の瞳がわずかに疑問の光を帯びる。
「気になるかい?」
「……」
(主は聡すぎる)
気にならないといえば、完全に嘘になる。
しかし、
主の言葉に従い、その命を遂行することが彼の従者である自らの全てだとセリシアは考えている。
はたして、聞いて主の為になる事なのだろうか?
「難しく考えることはない。頭が堅すぎると、メリアみたいになってしまうよ?」
横に立つ女性の迷いを見通した様にアスベルが苦笑する。
つけ加えるならメリアとは、主やエレーナ王妃がごくプライベートな時のみに使う、彼の妹のもう一つの呼び名だ。
リーク・シルメリア・ディル・セイン
そのミドルネームから取ったようだ。
アスベルは片手の、曲げた人差し指を顎にあて、「どうしようか」と独り言をつぶやく。
「まぁ、宵闇君のことは、話しておいてもいいかもしれないね。
昔話だよ。
未だに遺恨の消えない、悪夢の話さ」




