フェリオン(5)
「何だ、観光するんじゃなかったのか?
てっきり遊び歩いているものだと思っていたが?」
フェルガリア王城・騎士団立ち寄所の指令室。
たまっていた書類に目を通していたリークは、朝一番で戻って来た茶髪の青年に意外そうな目を向けた。
「手厳しいな」
たぶん門兵の目をかいくぐってきたのだろう。
体のあちこちに付いた小さい木の葉を払いながらフェリオンは苦笑する。
「ちょっと気になる事が増えたんだ。
観光したいのもやまやまだけど、一端フェルグランドに帰るよ」
「宵闇は?」
「彼の仲間に聞いたら、まだ寝てるってさ」
「あいつは……」
「いいんじゃないか?
昨日疲れてたみたいだったし、ゆっくりしてもらっててもさ」
「だから起こさず来たんだ」と青年は説明する。
「それに、宵闇はともかく、これ以上大人数に監視されると胃に穴が空く。
二十人くらいいたかな?
たぶんあれ、アスベルの手下だと思うけどね」
言いながら肩をすくめる様子を、リークは無言で見つめる。
(二十人も付けたのかあいつは)
目の前の青年に護衛と監視を付けるように頼んだのはリーク自身なのだが、まさかそんな大人数を配置するとは思わなかった。
(単にこいつの行動が気になったから、先の件に噛んでいたらと思って頼んだんだがな……
アスベルは、私以上に何か警戒していたと言う事か…………?)
何かあった様な感じも知らせもないが、引っ掛かりが取れない。
「帰るのは構わんが、気になる事とは何だ?
差し障りなければ聞かせてくれ」
内心を見せないように努力しつつ尋ねると、あっさりと、無視できない答えが返って来た。
「宵闇のことだよ」
「宵闇?」
「そう怖い顔で睨まないでくれないか?
もし俺をウェルズ卿の件で疑ってるなら心外だ」
「では何故、宵闇の事が気になるんだ?わざわざ今から国に帰る程に」
あからさまに警戒をにじませるリークに、フェリオンはやれやれと軽く首を振って向き直った。
緑の瞳から軟らかな雰囲気が消える。
腰に結んでいた、二本の短剣と自身を繋ぐ紐をほどいた青年は、短剣が床に落ちる音が響く前にリークとすれ違う位置まで距離を詰めていた。
「ーーっ!?」
ゴトトッ!……パサリ……
「今は監視がついてるから言えない」
床を鞘つきの短剣と紐が叩く音に微かに混じる低い声。
声の主はリークの後ろ、自身を支えるように壁に手を付いていた。
(監視というのは兄のことか)
「いきなり近付くな。まさかまだ酔ってるんじゃないだろうな」
理解の意を伝える代わりに不機嫌な顔で話をそらす。
「ごめんごめん、少しふらついてさ。
あー駄目だ、しばらく飲んでなかったから酒弱くなったかな?」
「遊ぶのもほどほどにしろ。剣も落ちているぞ」
「ああ、本当だ」
白々しい会話をしつつ、フェリオンは床から自分の武器を拾い上げた。
そのまま部屋の出口に向かって歩く。
「じゃ、明日の昼前に迎えに来るよ。城の移動塔使わせてもらっていいかな?」
「ああ。こちらから申請して鍵を解除しておく」
扉の閉じる音の後、リークは無言で机の上の紙束を叩いた。




