フェリオン(2)
宵闇は何とも言えない気分になった。
見せられた地図。小さな島がぽつぽつ浮かぶその辺りに覚えがあったのだ。
崩壊した黒翼種の島。
「まさか今さら里帰りする事になるとはなー」
ボソリと呟いた言葉に、フェリオンが反応する。
「黒翼の君にはそういう事になるだろうな。
無くなってしまった故郷を見るのが嫌なら無理に来なくてもいいけど」
「そーゆーのは無い」
即答して首を振る。
「故郷っても、そんな長く暮らしてた訳じゃねぇ。
せいぜい、死んだ同族の弔いに、花でも持ってくかって程度だ」
(んなモンが眠ってたってのはゾッとしないけどな)
「ならば、」
それまで黙っていたリークが口を開く。
「向かうのはいつにする?なるべく早い方がいいだろう。私は明日でも構わん」
「それなんだけどな……」
「何だ?」
「悪い、明日俺あっちの仕事だ」
「……」
「断れんのか」と鋭い目をさらに鋭くするリークをフェリオンが説得し、結果2日後に向かうと言う話に落ち着いた。
侍従達だけしか見当たらなくなった元いた部屋の中を、茶髪の青年が見回して呟く。
「アスベルいないな。
フィレットとレビシスも帰ったかな?」
「まぁ、もう遅い時間だからな。多分そうだろ。
あの旦那に伝言でもあるのか?
例えば恨み事とか」
茶化した宵闇の言葉に、ハハハと軽い笑い声が返された。
「先の件の恨み事はすでに十二分に言わせてもらった。
帰りの挨拶でも一応しておこうかと思ったまでさ」
言って、城の廊下を歩きだす。
向かう方向は、夕食会の前に連れて行かれた、着替えるのに使った部屋の方だ。
「着替えるのか?」と宵闇が確認すると、フェリオンからうなづきが返された。
宵闇とリークも同じ方向へと足を進める。
リークの鎧もおそらく儀礼用の物だし、宵闇は絶対に着替えなければ今の格好では街中に出れない。目立ちすぎてしまうからだ。
「貴方は確か術を使えなかったはずではないか?
城内移動塔の使用申請も無かった筈だが、船で今からフェルグランドまで帰ると夜が明けるぞ」
「いや、泊まっていくつもりだよ」
リークの問いに、フェリオンは首を横に振った。
「例の場所に行くまで滞在するつもりだけど、城に厄介になっても正直肩が凝るんでね。観光ついでに街の方で宿を取ってる」
「街でって、護衛も無しにか?」
「もちろん。流石に名前は変えたけど。
ぱっと見誰もおれがフェリオンだなんて思わないさ。目立たない顔の特権だ」
あまりに能天気な青年を目で追い、宵闇はリークに問いかける。
(力加減のネジ飛んでる男女、ピエロなガキ、んで、こいつ……)
「なあ、幻将って何でこうちょっと変なの多いんだ?」
「何故私に聞く?」
「や、同類としてはどうなんだろうなと・・」
「お前はそんなに、私に斬られたいのか」
宵闇を軽く睨んでから、リークはふぅ、と軽く息をついてフェリオンの背中を見た。
「彼は昔、盗賊のような事をしていたらしい。
だから城より街の方がよほど肌に合うのだろう。
あんな風に笑っているが、アスベルのことは嫌っているようだしな」
「ふうん。盗賊って、まぁ言えば犯罪者だろ?そんなのが幻将になれるってのは驚きだな」
フェリオンと言う青年は見た目に反して、随分と奇天烈な経歴を持っているらしい。
胡散臭そうに見る月の瞳に、苦笑が返される。
「幻将に生まれや地位が重要視されるのは、ここと徒人の島ぐらいさ。
幻将の、そもそものいわれを知ってるかい?」
「島の武力の象徴じゃないのか?」
怪訝な顔をして、宵闇は前を歩く青年に聞き返す。
答えは横から来た。
「間違いではないが、それは云われと言うより認識だな。
最古にして最大の戦を平定し、その時に残っていた国を守った者達が元々の『幻将』らしい。
その後暫く後に、揃って忽然と姿を消したらから、そんな名が付いたんだろうがな」
「へえ……ってことは単に伝統で英雄の引き継ぎしただけの立場ってことか?
どーりで島によって扱いに差があるわけだ」
「そう言われてしまうとミも蓋もないけどね」
フェリオンが肯定する。
「おれは前の幻将が空席だった時に、たまたま縁があったお偉いさんの推薦でこうなっただけ。
おかげで円卓にもそんなに参加しなくていいし、師団を1つまとめてるだけだから気楽なんだ。
話さえ通しておけば、他の島で泊まるぐらいは何てことない」




