訓練(2)
再び地面に腰を下ろして穴だらけの周りを見渡す。
目を閉じて深呼吸1つ。全身に力を込めて宙を見据えた。
その瞬間に視界に掛かったのは黒っぽい半透明の膜。
宵闇の周りには半球状の壁が出来ていた。
「・・・・」
1秒。
2秒。
3秒。
「・・~っ!」
4秒。
5秒。
どんどん半球は薄くなっていき、ついに空気に溶け消える。
「くそ・・・保って5秒か。
うまくいかねぇ」
「厳しい先生に叱られて秘密の練習かぁ?
大変だなぁ」
眉を寄せる宵闇の後ろから不意にからかうような声が掛けられた。
出所には紺色の髪に紫の瞳をした青年。
同じこの街のギルド構成員で親友のラグだ。
「ラグ、いつからそこに?」
「王子様が下りてった頃からだな」
ラグはリークの行った方を見ながら答えた。
「一仕事終わって時間空いたからさ、差し入れ持って来たんだが少し遅かったか」
持っていた紙袋から林檎を取り出して宵闇へ投げる。
「ソレお前の分な」
「さんきゅ」
「進み具合はどうだ?さっきの感じじゃ、あの壁は出来てたみたいだが?」
立ったまま林檎をかじりつつ問う友人に宵闇はかぶりを振って返した。
「造れはするけど時間が短すぎるし、強度も脆すぎる。
あん時、リークのフルパワーの空間破砕を防ぎ切ったのが自分でも信じらんねー。
多分火事場の何とかってヤツだったんだろうな」
遠い目をしているのが自分でもわかる。
「気落ちする事無ぇんじゃね?
1日頑張って造る事も出来なかったのに比べりゃ上達してるんだしな。
王子様の焦りは分からん訳じゃないが、この前みたいな事がそうそう起きてたまるかってんだ。
命いくつあっても足りねぇよ」
友の言葉に宵闇は「まぁな」とだけ返した。
リークの空間破砕と宵闇の防御壁。
その能力は、どちらも『ロスト・フラグメント』と呼ばれる創暦以前の遺物に起因する。
だからこそ、二週間前『遺物』絡みの事件に巻き込まれて以来、事が起こった時の対処をするべくリークと組む事になったのだが。
月の瞳に宿る光に気付いたのか、ラグは大仰に肩をすくめた。
「無茶はするなよ?お前にはギルドの仕事もあるんだからな?
明日の昼からトゥニスの近くで観光者の護衛、いつものユノ観光からお前ご指名だ。
帰ったら内容確認しとけ」
「わかった。ラグは?」
「もうちょいしたら次の仕事。・・ったく、どこにでも殺意ってのはあるもんだ」
「気が重いなら蹴ればいいだろ。そんな仕事」
手の回る範囲の広さから商人などの護衛を主にしている宵闇とは対象的に、同じ傭兵でもラグの仕事は武器の運搬や暗殺代行などの表沙汰に出来ないものばかりだ。
そんな仕事をよく十年近くもやっているものだと宵闇は思う。友人としては一刻も早く足を洗ってもらいたいが、当人にその気は無いらしい。
「あーゆーのをビジネスとして割り切れる奴は少ない。中途半端な気持ちでミスると下手すりゃ自分と依頼人が土の中だ」
「だからオレみたいなのが適任♪」と、ラグはヘラヘラ笑って持っていた果物入りの紙袋を宵闇に渡した。
「そろそろ帰るわ。
お前は今日城に呼ばれてんだろ?それ、リーク殿下に渡しといてくれよ」
「りょーかい」
苦笑しつつ、宵闇は茂みの奥に消えるラグを見送って、自身も丘を下る道へ歩き出す。
小高い丘から見えるフェルガリアの街並みは、やや傾いた日が白い壁を綺麗な黄色に染め上げていた。
「こうして見ると、すげぇ平和そうなんだけどなぁ・・・あいつが手ぇ汚す必要無ぇぐらいには」




