107 日記
ラグ達と別れて資料館地下奥の扉をくぐった後。
小さな部屋で「情報を外部に漏らさない」と言った内容の誓約書にサインをし、さらに小部屋から続く細い石の通路を歩いた先は行き止まりだった。
「?
これってもしかして奥に通り抜け出来たりするのか?」
「うん。以前君達が入ったあの遺跡にも同じ仕掛けがあるらしいね」
宵闇の予想をフェリオンが肯定する。前にいたゼウレフが答えた。
「遺物が普通にあった時期、このような仕掛けはそう珍しい物ではなかったようだ。
最も、単なるカモフラージュの幻から、強固に入る者を選ぶものまで種類は様々だったようだが」
言いながら男は右手をかかげ、目の前の壁に当てる。その場所からフワフワと光を纏った波紋が広がった。
「ここの場合は鍵が必要で、私の家の直系が代々それを継ぐ。
その意味では、私もフラグメント保持者と言う事になるか」
「へえ、リデルにコールと言い、結構いるもんなんだな」
茶髪の青年が笑った。
「いや、使ってる事を割と気楽に言えるのはこの島の中だからだよ。
対外的には使ってることを大っぴらにすると面倒だから控えてるけどね。あること自体は暗黙の了解さ。
セイングランドは君を例外として、基本リーク以外に持たせないように考えてるようだ。
コスモクロアもアレを人が使うのに否定的で、見つけたら片っ端から封印してるみたいだし、ドゥ・レゾンも同じ。
キャスグローブには元から殆どなかったみたいだから直接害が無い限り我関せず。
国交閉ざして引きこもってるティレイエリベスも我関せずに入るかな」
「へえ、詳しいな」
「他の島のスタンスくらいは何処の幻将でも知ってるよ。
それに、情報を集めておくに越した事はないからさ」
その会話に、ゼウレフがやや苦い顔をして振り返った。
「その為に君が島を出て走り回り過ぎてもいかんのだがな」
「あれに関しては本当に反省してますよ」
皮肉げな言葉にむくれて唇を尖らせるフェリオン。
頭の上にハテナマークを浮かべる宵闇に「ウェルズ卿のことさ」と少しうなだれながら説明した。
「おれがもっとあのじいさんを注視してれば、リークが襲われる事も、君が巻き込まれる事も無かったかもしれなかったから」
波紋を浮かべた石の壁に向かって歩き出しながら低い声で呟く。
「俺達無事だったんだし、そこまでしょい込むようなもんか?別にあんたのせいじゃねえだろ」
宵闇の言葉に、フェリオンは肩越しに少しだけふり返って「それでもおれは、君達が巻き込まれたのはショックだったのさ」と、どこか悲しそうな笑みを浮かべた。
しかしすぐに前へと顔を戻し、体を壁に沈ませてゆく。
「……」
釈然としない気分を抱えながらも宵闇もその後に続いた。
壁の奥は何でもない、ただの質素な小部屋だった。
真ん中に運び込まれたとおぼしき、わりと新しそうな木の机があり、石の壁を埋めるように四方に備え付けられている書棚には、端っこに本の代わりに少しの紙束が置かれているだけと言う殺風景な光景。
「どれも古いものだ。大切に扱ってくれ」
「分かりました。ありがとうございます」
どれを読もうかと迷うほど資料は多く無かった。
とりあえず三つしか無い紙束を全て机の上へと移動させて、その内最も小さな一つを広げてみる。
破れや虫食いが入ってボロボロだが、言葉自体は文法が少しおかしい以外、宵闇でも知っている言葉だった。
(これ、黒翼島の言葉だな。何でこの島に……もしかしていきなりビンゴか?)
あまり掠れていない文字が集まっているあたりに目を向けた。
(えーっと、5の月34……)
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知らされた。降伏したとアントヴェ……が
無事なんだろうか。……は。会っていない。エディオとも。
6の月4
移送になるらしい。僕はルシェンナに
のは殺さない反逆者を、僕が、だからだろう。生みの親あの技術の
嫌だった。なること そんなものに
6の月7
言って来た。新月が
出してやると、僕をここから
言った嫌だと。もらえなかった聞いては。
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「日記だよな、これ」
「うん。おれ達も黒翼の誰かが書いた日記だと思ってる。内容からして獄中にいたっぽいね。
ルシェンナって言うのはこの島のことさ。
大昔にそう言う国がここにあったみたいなんだ」
「へえ」
順にゆっくり紙をめくっていく。
しばらくは食べていた物や、戦争をしていたらしい当時の国の情勢。度々友人らしきフェメルとエディオを心配している記述が続いていた。
しかし、唐突に乱れた字体が眼に飛び込んで来た。
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6の月18
出された牢か…………理。連れて行かれた場所、名前形成場。
死んでいたフェメル、…………ェイルのたくさん。
言われた 武器を作れ、これらを基にしてと。
僕はもらった、時間を。
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月の眼が険しくなる。
「おい、これらってのはまさか……」
「気付いたかね?」
部屋の端にいたゼウレフが口を挟んだ。
「人を材料に武器作ったって事かよ」
そんな馬鹿な話があるかと思いたいが、リークは、自分の武器は人を喰うと言った。
事実あの白い剣は手にした朔の腕を這い上がって侵食していた。
使い主を喰い殺す剣。
そんな滅茶苦茶な武器がどうやって作られたのか疑問だったが、その答えがこれの様に思えた。
それを肯定するようにゼウレフは頷く。
「全ての遺物がそれに当てはまるかは判らぬが、そのような悪夢じみた技術が確立していたらしい」
「しかもこいつはそんな技術の生みの親で、ダチ殺されて武器の材料にしろって強要されたってのか?」
どんな反逆者だったか知らないが、それにしても人道など微塵も感じられないこの仕打ち。
口を苦々しく歪めてさらに紙を捲った
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6の月……
始めた準備を。
僕は許さない。彼らに受けさせる報いを。
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日記らしき記述はここで途切れていた。その束の残りは延々とよく分からない図形や掠れて読めない小さなメモ書きらしき文字があるだけだった。
宵闇は、あれ以上日記が続かなかったことに少しホッとした。
「許さない」の後に続いた行動がどんなものだったのか……決して良い物ではないだろう。
黙り込む宵闇を見て、横からフェリオンが「大丈夫かい?」と声を掛ける。
「顔色が良くないな。
少し休憩するかね?」
「いえ、大丈夫です」
首を振って別の束に手を伸ばす。
(へばってられるか。
まだ、こっちに朔のやった事に繋がるもんがあるかもしれねぇんだ)




