104 ゼウレフ
リベルタ中央区・議会場。
街の中でも一際大きく目立つ装飾のこの建造物が、フェルグランドの意志決定を担う場所だ。
王を絶対とし、王族であるセイン家が政務を取り仕切っている翼島と違い、ここは島の各地で推挙された人々が集い、さらにその中で選ばれた数人の者が「円卓」と呼ばれる座に就いて、会議によって政をしているらしい。
翼島に住んでおり、故郷も王制に近かった宵闇にとって議会制とか言うものはあまり馴染みがなかったが、翼島に比べて何となく人々の開放的な気質が高いように感じるのはその為だろうか。
フェリオンの後ろで凝った装飾の柱が並ぶ薄茶色の大理石の通路を歩き、さらに幾つかの連なった部屋を通って暫く。
朱色の絨毯が敷かれた広間の入り口で雇い主が足を止めた。
視線の先には広間の奥にある有翼人の女性を象った像を見ている男。
「翼島を離れこの地に移った我々の祖は、決して絶対者を作らぬ事を最初に決めたそうだ」
身分が高い事を示す金の紋様入りの乳白色をしたローブを羽織った人物は、像を見上げたままの姿勢で低く言葉を発した。
「それは翼島への反発心故だったようだが、果たしてそれだけか。
それとも遥か昔の厄災を再び招かぬようにと考えた故もあったのか」
独り言のようにも、問いかけているようにも聞こえるそれに、少し間を空けてフェリオンが返した。
「相変わらず答えの見つからない事を考えるの好きなんですね。
いつかハゲますよ?」
「君の口の減らなさも相変わらずだ」
振り向いた四十代後半とおぼしき、整えられた短い灰色の髪に深い青緑の瞳を持った男は、まっすぐフェリオンの前まで来る。
厳格そうな彫りの深い顔にわずかな笑みを浮かべた。
「私がハゲるとすれば原因の3割は君だよランドル君。後ろの彼らがこの間話していた者逹かな?」
「ええ。
こっちが宵闇、こっちがラグ。翼島の傭兵です」
簡単すぎる説明の後、一呼吸置いてフェリオンは宵闇逹へと半身向き直った。
「君達にも紹介するよ。
この方はゼウレフ卿。円卓の1人で、おれが幻将になるのを推挙してくれた人なんだ。
見た目ほど厳しい人じゃないから緊張しなくても大丈夫だよ」
「見た目ほどは余計だ」
ゼウレフは苦笑し、「ようこそ」と右手を差し出す。宵闇がそれを握り返して頭を下げた。
「始めまして。お会いできて光栄です」
「ふむ……」
手を握ったまま僅かに何かを考える素振りをした後、男はフェリオンへと青緑の視線を向ける。
「彼がフラグメント使いかね?」
「!!」
あまりにも事もなげに言われ、宵闇の思考が一瞬停止した。
(おいおいおい。
フェリオンの奴、何ペラペラ遺物の事喋ってんだよ)
抗議の混じった月の瞳に気づいているのかいないのか、茶髪の青年も事もなげに頷く。
「そうです。
リークの能力をも防ぐ防壁を築けるんですが、翼島はアレに関して秘密主義ですから。
彼は持ち主でありながらフラグメントについてあまりに知らない事が多い。
だから貴方の保管しておられる史料を見せて頂きたいんですよ」
「史料?」
これまで黙っていたラグが口を挟む。
「うん。
この国のあちこちでフラグメントに纏わる史料が出ていてね。
それをゼウレフ卿が管理しているんだ」
「なぁソレ国家機密なんじゃ」
いいかけた言葉を男が遮った。
「機密は機密だが、別に国を転覆させるようなものが有るわけではない。
むしろ、ウェルズの様にアレに無闇に手を出すのは無学であるが故。
理解する材料があるのにそれを活用せぬのは愚かだろう?
勿論、巷や他国に蒔かぬよう、術拘束付きの誓約書には署名をもらうがね」
「吹聴しなくても、得た知識を翼島の為に使うかもしれないっすよ?
それはこの島の為にならないでしょう?」
「構わぬよ」
ラグの言葉にあっさりと肯定が返された。
「ただの古い歴史書に直接的に能力を上げる機能など備わっていない。
宵闇君がそれを持つ者である以上、脅威と言う面でなら知識を与えずともすでに脅威だ。
なれば、逆に理性的に使って貰わねばならん」
「…………」
言い切られてラグは口をつむぐ。
不満げな表情を見るに、やはり宵闇が遺物について色々知ることに紺髪の友人は思う所があるらしい。
宵闇はフェリオンが自分を呼び、リークもと言っていた事がようやく腑に落ちる
ゼウレフのこの考え方ならリークにそれを見せることすらも是とするはすだ。
正直、願ってもないありがたい話だった。
「ありがとうございます」
頭を下げた黒髪の青年に頷くと、男は背を向け広間にいくつかある外への扉の方へ歩き出した。
「厳重に保管してある故少々時間はかかるが、迷わぬよう付いてきたまえ」




