101 模擬戦(3)
即座にラグの左手が動いた。いくつもの銀光が宵闇に向かって飛ぶ。
(先ずは針、いつものパターンだな)
片手を振るって黒線で空中を凪ぎ、飛んできた物を弾き落とす。
友人とはこうやって、何度か仕事の無い日に軽く訓練したことがあり、手持ちのスキルも動き方も、大体はお互い把握済みだった。
移動しながら反撃に向けた線を、器用に素早く避けながら向かってくる紺髪の青年が、仕掛けていた細い線を踏む。
その線が切れた反動で、ラグの横や背後から強化した黒線が殺到。青年が避けれたかどうかと言うタイミングで石畳を削った。
仕掛けと、黒翼の青年自身から向けられる線の嵐から逃げ、ラグが斜め後ろに下がると同時に宵闇も横に動く。
地面から突如上がった火柱がわずかにマントを焦がした。
(やっぱり来たか! あっぶねーっ!)
紺髪の青年が『ヴォルト』の次に得意とする術だ。場所を移動できるらしいのに加えて、予備動作一切無しで発動させてくるので厄介極まりない。
避けた所に頭上から数本の針。
防御の為に出した線の束の、すぐ外側で雷光が迸る。
バリバリと盛大な音を立てて、自分の武器とぶつかった物の、手応えが急に変化したことに、宵闇は慌てて線を解き横へ避けた。
間を置かずにさらに後ろへと下がる。
二秒前までいた場所に雷を纏った鋼の槍が刺さり、一秒前にいた場所に火柱が上がった。
(こ……っの!)
少し無理な姿勢で避けたためバランスを崩したが、ラグの方も、宵闇の仕掛けに阻まれたらしく追撃はない。
距離を取った状態で再び向かい合う。
「ラグ、腕上げただろ。
攻撃が前よりポンポン来るから怖えよ」
「お前は性格悪くなったんじゃね?
仕掛けの嫌らしさが半端ねーぜ」
「お前の地雷に学んだ」
「そりゃ光栄なことで」
様子を見ていたニクスが目を丸くしていた。
「リーダーが言ってたのより凄いよ?あの二人……」
「しかもお互い……特にラグって奴の方、かわせるギリギリで容赦無え攻撃してやがる。
普通危なくてできねーぞ、あんなマネ」
横でコールも少し悔しそうな顔をして言う。
「いざとなったら、宵闇には切り札があるからでしょう?
隊長が言っていた、何でも防げる黒い壁。
まだ一度も使ってないけど」
ルイーズは微笑みを浮かべて眺め、メルとリデルはそれぞれ黙って宵闇とラグを凝視していた。
それを横目で見ながらラグが呟く。
「……まだ終わりの合図はしてくれそうにねえな。
奥の手出すのを待ってるらしい」
「俺の壁か」
「多分な。
ちょうどいい具合に試してみたい術があんだけど、使って良いか?」
同意を求めてくる友人に珍しいと思いながら頷いて返す。
「この辺焼け野原にする様なのじゃなかったらな」「そんな真似するほど馬鹿じゃねえし、加減はするさ」
紺髪の青年はケラケラと笑い、周りで観戦している面子に視線を巡らせる。
「これからちょいとデカイのやるからよ、あんたら下がっといた方が良いぜ」
「え?」
「そーだな。
隊長さんの居るトコぐらいまで行けば安全だ」
フェリオンは十段ほど離れた上の段に腰かけていた。
『そんなに被害が出るのか?』と、やや疑わしげな目を向けつつも、コールを除く四人が段を上っていく。
「俺は盾があるから大丈夫だぜ」
「あんたのソレ、全方向防げるのか?」
「いや……」
「だったら悪い事言わねえから下がっててくれ。
一応味方なのに大ケガ負わせちまったら、仕事に差し障るからな」
「まじかよ……」
五人の避難が済んだと見計らって宵闇がラグに線を向けた。
相手の方はそれを避けながら何かを呟き始める。
術の詠唱だ。
『我有するは魔、我属するは星、我求めるは水、我作るは霞
我求めるは風、我放つは雷槌
我求めるは土、我作るは錐』
襲いくる黒線から逃げながら、石畳の端まで走った所で紺髪の青年の足が止まる。
「いくぜ宵闇!」
わずかに笑いを含んだ低い声が小さく聞こえた。
途端、四角い石畳の広場を中心にして風と、その中で細かい氷の塵が踊る。
白い霞がかかり始め、修練場の温度が急に下がりはじめた。
何が起こるか解らず、線を伸ばした両手を構えて周りを見回す宵闇を囲むように、細かいプラズマが現れる。
(『ヴォルト』のデカイ版か?そのわりにピリピリするだけで大して威力もねえし……)
視界の悪い中で佇む青年をからかうように、友人の声が遠くから聞こえた。
「よーいやみ、足元注意」
「は? ……!!」
見下ろした宵闇の動きが凍った。
いや、凍らされたと言うべきか。
足首までが、真っ白い氷と霜に覆われて動かなくなっていたのだ。
「うわ……いつの間にっ……」
それだけでなく気温のせいか、体にもまとわりついた霜のせいか、思うように動けない。
追い討ちをかけるように声が響く。
「そろそろ壁創った方が良いぜ~」
姿が見えないので、どんな顔をしているか解らないが、おそらく意地の悪い笑いを浮かべているだろう。
何が来るかは未だ読めなかったが、用心して線で足元の氷を砕いた後、自分を包む場を創った。
(ほんとは、獣人島の気温使えば氷解けるんだろうが、そこまで今は切羽詰まってねーしな)
黒い壁が宵闇を包んでから、二秒後にそれは背後から突然来た。
パァン!!
「!!」
黒い壁に阻まれたのは、氷を纏った錐。
それを皮切りに、霞を破いて四方八方から鋭い氷が殺到した。
あっという間に壁の向こうがぶつかって砕ける氷で埋め尽くされる。
(氷の嵐!
これがメインか……
壁が消えたら穴だらけになっちまうな!)
氷の奥で、プラズマが激しくなっているのが少し見えた。あれに触れても多分アウトだろう。
よくこんな物騒な術を思いつくものだと、半ば呆れに近い感情を友人に抱く。
(まぁ、こいつを防ぎきるぐらいなら多分大丈夫だけど……
いつまで続くんだ?この嵐)




