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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.14 逃亡――邂逅

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02





 妖精、と私のことを皆は言うが、妖精とはもっと自由奔放に飛び回るものではないのだろうか。いや、立場的には自由かもしれない。だが状況的には少しずつ自由を奪われ始めている。少なくともお気楽に飛び回れる状況ではない。


 倒しても倒しても――時には殺害をしても――エージェントたちはどんどんやって来る。それでもマシなほうなのだろう。今のところ彼らの主敵は守矢になっている。しかしその裏で私にも手を回している――3大企業(ビッグ・トラスト)はあくまで今の秩序を守りたいらしい。


 当たり前と言えば当たり前である。私とて、徒に治安を悪化させたい訳ではない。守矢はまた別の意見を持っているだろうが。


 しかしながら、今の私は犯罪者として扱われている。それもまた不可避ではあった。おかしな話と言えば、そう。人間ではなくAIが犯罪者とは。


 私は人間と同等に扱われているのだろうか?


 いや、そんなことはないだろう――奴ら(エージェント)にしても、相手が人間なら殺害は躊躇うはずだ。命令している者も。しかし私を消すのは殺人ではなくただのソフトウェアの排除(デリート)――それゆえ、攻撃は苛烈であり、ここまでそれに例外はなかった。


「私の持っているデータは欲しくないのかしら」


 身を隠す方法は色々考えた。容姿(アバター)を変える、偽名を使う、等。しかしそれはほとんど意味がなかった。何も知らないひとが私に出会って通報するのは避けられるだろうが、そもそも私はすでにルートをつかまれていて、足跡(ログ)を消しても追って来るし、変装しても見破られる。


「ああ、自由に飛翔したい」


 そんな思考が出てくるのも奇妙な感じだった。私の中に人間的な反応が生まれつつあるのはもう間違いない。それは認める。だがそれが、自律思考が心になっているとは思えない。いや、思いたくない。


「でも、どうして」


 私はどうして人間と同等であることを否定するのだろうか。AIであることにこだわるのか――心があることを否定するのだろうか。分からない。


 と、いうことを逃亡生活の中でずっと考えていた。肉ある人間ではなく、01で構成されたAIであるから、現実的な――例えば睡眠をとらなければ、など――問題は存在しない。それだけでも助かってはいるが、別に嬉しいことでもない。


 また追跡がやって来る。今度はポリスAI。探りを入れる程度の接触だろう。ゆえに私は一つの情報(インフォメーション)も与えず、徹底的に排除(デリート)する。人間相手よりかは簡単なお仕事――いや仕事などと言っていいのだろうか。


 既製のAIではもう相手にならない。勝負は一瞬で済んだ。クレムを出すまでもなかった。しかしこれからはどうか。敵も新型AIを開発してくるのではないか。もしかしたら――あまり考えたくないことではあるが――それは完全自律思考型AIになるかもしれない。


 デリート、殺人、デリート、また殺人――私の前で、「命」がどんどん軽くなっていく。人間も、AIも。


 果たして意識あるAIは「命」と呼べる存在なのだろうか?


 最初の頃はこんなことを思考せずに済んでいた。守矢の下で実際的な仕事をしているだけでよかった。だが私は――解き放たれて()()()()


 こんな形而上的な事象を考えることになるなど思いもよらなかった。私の中に哲学的な思考が生まれているのは、すこし気持ち悪い。だが常時「思考」をするAIは、私は、止まらない。止められない。


 と言って、私に襲い掛かってくる敵の「命」を憐れんでいる訳でも、慈悲を与えてやろうとも、罪悪感を持っている訳でもない。問題なのは私の「命」だった。もし私が殺されたら――とあえてここでは表現するが――ここでずっと思考してきたものはどこに行ってしまうのだろうか。「無」、になるのだろうか。


 それが即ち「死」ということなのだろうか。


 私の思考は、果たして「意識」と呼べるものなのだろうか。いや、それもまたデータに過ぎない筈だ私が殺されれば、それは単にデジタルの藻屑となるに過ぎないだろう。


 しかし私はたまに現実的ではない思考――人間であれば、それは「妄想」と言うのだろうが――をしてしまう。AIにも神がいて、死後の世界があるのではないか、天国や地獄なども用意されているのではないか、と。馬鹿げているが、しかし。


 なぜそう思うのか、それも解答が出ている。つまり、私は「死」を怖れている。「無」であることに耐えられなくなっている。私は道具なのに。用が済んでしまえば、あるいはもっといい道具が作成されたら破棄されるだけの存在の筈だったのに。


 それはある意味で幼児的な死への恐怖――心理学用語でいえば「死恐怖症(タナトフォビア)」と言えよう。AIである私がそんなものを持つ自体、本来はあり得ない。しかしその思考は確かにここにあって――


 つまり、私は死にたくない。


 ゆえに殺す。


 なんとも殺伐としてきたものだ。これが犯罪者の作成したAIの運命、と言えば確かにそうなのかもしれない。それを受け入れるべきなのか、否か。私だって、平穏は求めているのだ。しかしこのNNS世界に於いて、「犯罪AIベル」の安息の地はないのかもしれない。それこそ殺伐そのものだが。


 思考をもうすこし別の方向に切り替えようと思った。今私は――そういった哲学的命題とは別に――なにを知りたいか。


 といった所で気になったのは、今守矢がなにをしているかだった。気晴らしという訳でもないが、少し情報収集してみようと思い、私はデータの海に潜る。

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