表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.14 逃亡――邂逅

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
92/134

01





「ああもう、しつこい」


 あれからしばらくして、私を追跡するエージェントが増加した。無論、原因は分かっている。芳一氏を殺害したからだ。それは確実にTRIAを敵に回す出来事になっただろう。それは不可避だった。


 しかし、芳一氏の死は公にはされていない。3大企業(ビッグ・トラスト)は不自然なほどに慎重に情報統制を敷いている。そこには、私を完全に闇の中へ葬り去ろうとする意図が感じられる。


 私は出来る限り足跡(ログ)を消しながら移動していた。それでも追手は止まない。どうやってこちらの居場所を特定してくるのか、結局の所このNNS世界はかれらの掌中にあるのだと思い知らされる。私はきっとこの世界で最も演算処理能力の高いAIだろうが、しかし同時に一個体のAIに過ぎない。それが巨大権力を敵に回し、どこまでやっていけるのか――


「どこか安全な場所はないのかしら」


 当たりを付けている場所はある。だがある程度追跡が収まるまでそこには移動できない。敵を片付けるのは容易い――だがそれは明日なき戦い、終わりなき戦いだった。どこまでもやって来る。私は人間ではないからどこまでも戦えるし、潰れることはないが、向こうも圧倒的な物量で襲い掛かってくる。ひたすらに不毛。


 気を抜けば打刻(ピン)を受ける日々。しかし芳一氏を殺害したからと言って、ここまで急激に攻撃を激化させる必要はないのでは? と思っていた。その理由について色々推論してみたが、どうにも上手い解答が自分自身から引き出せない。自由に情報(データ)に触れ合えない状況にもなり――それはAIにとっては致命的になりかねないことだった――、推論精度が下がっている。


 そんなことを思考している内にも、また敵がやって来た。誰にも気付かれない暗闘――私はそれでもいい。しかしそんな謳われざる戦いを挑む人間のエージェントはどんな感情を持っているのだろう。徹底的に訓練されている、と予想は出来る。しかしその内心はどうなのだろう。


 全く以て滑稽な逆説だが、ここに至り私は人間心理に対して興味を持ち始めた。でも私は彼を殺すのだ――


「大人しく投降しろ、ベル!」

「AIの私を投降させて、なにか意味はあるの?」


 と言いながら、私は悟られることなく裏でエージェントの情報を解析する。今回はTRIA直属のエージェントらしい。


 もっと物量で潰しに来ればいいのに、などと私は思うのだが、彼らは秘密裏に私を消す(デリート)ことを望んでいる。ゆえに静かにやって来る。それは公にしたくないという意図が一番なのだろうが、もうひとつには守矢の存在も関係しているだろう。


 私も戦闘には随分と慣れてきた。呼吸をするように――いや、これはあくまで慣用表現――私は呼吸などしていない――プログラムを展開できる。そして経験を積むごとに速度も精度も上がっているのが自覚出来る。


「諦めなさい。私にはもう誰も付いて来られない」


 それでもなお、戦闘を続けるエージェントたちにプロフェッショナルなものを感じずにはいられない。かれらは機械の私以上に機械的だった。今際の際ですら、かれらはなにも言わなかった――自分自身がやられても、データは回収出来たとでも言うように。


 その内実が知りたくなって、私は今回の敵はただ殺害するのではなく、捕まえてなにかを吐かせようと思った。CSAではなくTRIAのエージェントだったのも大きい。


 戦闘は呆気なく終わった――彼が使用していた量産型AIをすべて潰し、(ルート)をつかんで完全無力化させた。


「なぜ殺さない? 俺を捕まえてもなんの得にもならんぞ」

「あなたたちにはひとつ訊きたいことがあるのです――どうしてここまで私を執拗につけ回す? 竹芝芳一が殺された、という私怨以上のものを感じているのです」

「なんだ、そんなことか――お前はAIなのに、いや、ゆえになのか、自分のことが分かっていないんだな」


 完全に心臓をつかまれているのにもかかわらず、そのエージェント――顔は見えない――は悠然としていた。異様な程の無感情だった。私はしばし、彼がじつはAIなのではないかと疑ったほど。しかし彼は機械的であるがゆえに、人間だった。


「どういう意味です?」

「分からないか? お前は危険なんだ。お前は――完全自律思考型AIとして、自由意思で人間を殺せるまでになった。それを危険と言わずしてなんと言う!」

「自由意思――?」


 そこで私ははたと気付いた。そう、今や私は自分だけの意思で行動しているのである。今まではそんな意識はなかった。でも、そうだ。私を使役するものは、もうどこにもいない。生きるのも、死ぬのも――殺すのも、自由。


「そしてお前には倫理観というものがない。ゆえに排除されなければならない」

「それが、あなたたちの『理由』ということなのですね」


 私はここで彼を殺そうとは思わなかった。話を聞けば解放しようと思っていた。


「行きなさい。あなたたちの意思は確認できた。あなたには感謝している――だから見逃してあげる」

「ハッ!」


 だが彼の職業的良心は思った以上に強く――頑固ですらあった。そしてそれは彼の個性ではなく、エージェント全員に通底する意志だった。


「AIに慈悲など受けるものか」


 そうして彼は自身に攻撃プログラムを撃ち込み――自害したのである。


「――どうして? 死ぬ必要なんかどこにもないのに――」


 私は困惑した。


 人間に対して興味を持ち始め――人間のことが理解不能になっていた。


 そして私自身のことも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ