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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.13 創造――血染

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03





 私はこの時、まだ今からすることへの深刻さに気付いていなかった。完全自律思考型AIとはどういうものなのか、それで自分が何者かを探る――それしか考えていなかったのである。


 しかし芳一氏は最初から気付いていたのだろうか?


 私はアドレスに従い、芳一氏の空間(スペース)接続(アクセス)した。これはなんとなく、これまで私が辿ってきた軌跡を振り返るものでもある、思い始めていた。実際そうなっている。キース・バートン氏、桐谷俊氏とアルマさん。そして今回の竹芝芳一氏とサクラさん。


 私は作成されて、まだそんなに時間も経っていない赤ん坊のようなものだ。だがそれでもかなりの――濃密、と表現してもいいかもしれないような体験をした。今起こっている変容はその結果であり、それを促した人々と、守矢と離れた今この時になって再会しているのだった。


「やあ、よく来てくれた」


 芳一氏のスペースは和風旅館のような風情だった。床は畳であり、12畳ほどはある。真ん中には正方形の卓が置かれていて、お茶受けなどが置かれていた。芳一氏は悠々自適な老後を想像(イメージ)しているのかもしれない。


 その室内に合わせるようにして、芳一氏は水色の浴衣、サクラさんは名前に合わせたのか、淡い桜色の浴衣を着ている。なんだか奇妙な感じになった。私を作成した守矢は日本人だが、私はこれまで日本的なものと触れ合った記憶はなかった。しかしこうなると白いワンピースと赤髪碧眼の私は異様に浮いているような気がする。気にしても仕方ないが。


「再び会えて光栄です、芳一さん」

「こちらこそ。貴重な体験をまたさせてもらうのだからな」


 それから芳一氏はこんなことも言った。


「きみは亮とも会ったことがあるそうだな。それも何回か」

「知っているのですか? 彼とは話す機会もあるのでしょうか」

「それはもちろんだよ。亮は息子だからな」


 となると、先達としてTRIAの運営のアドバイスなどもしているのだろうか、と考えたがそれは訊かなかった。芳一氏は企業のことはあまり考えたくないだろうと予測されたからだ。悠々自適の老後を嗜んでいるのだから。それくらいの気遣いはするべきだろうし、私にはそれが出来る。


 サクラさんはなにも喋らず、広縁の机にしっとりと座り、佇んでいる。窓は開けられていて、その先には緑生い茂る山々が広がっている。山奥のひっそりとした旅館といった感じ。しかし具体的にどこをイメージして作ったスペースではないだろう。となればここはある意味で芳一氏の幻想が詰まっていると言える。


「素敵な場所です」

「そうだろう……きみはそういうものも解するようになったのか」

「美しい、という感覚はついこの前知りました」

「完全自律思考型AIとは、そのような成長をするものなのか」


 芳一氏は単純に感嘆しているようだった。もしかしたら、彼は私に「心」があるように思っているのかもしれない。そしてそれをサクラさんに持たせたいのかもしれない。しかしその期待を、私は裏切ってしまうだろう。


 それにしても、広縁に座りながら、外を眺め続けるサクラさん――竹芝サクラ、と呼ぶべきなのだろうか?――はとても美しい。そしてアルマさんよりもさらに一回り大人にしたような妖艶さを醸し出してもいる。雰囲気も和風美人という感じ。


「このサクラは30代の頃をモデルに作った。この頃が一番美しく、魅力的だった……」

「芳一さんはそれに自分を合わせようとは思わなかったのですか?」

「自分までそうすると言うのは――卑しいと思うのだ。ひとは老いる。その運命は受け入れるべきだ」


 しかしそうなると、見た目は老人の彼と30代女性の彼女というカップル、夫妻になり、なんとなく倒錯した雰囲気も醸し出しているのだが、私はそれも黙っておいた。


 しかしこの、AIのサクラさんが美しければ美しいほど、私は先程から疑問に思っていたことを質問せずにはいられなかった。


「何故彼女を完全自律思考型にしたいと思うのです?」

「そんなことが気になるか?」


 こうを思うのは、結局の所私はAIに過ぎないのではないかという話にもなってしまうかもしれないが、それでも訊いた。


「理想の妻の生き写しが欲しいのであれば、なにも自律思考型である必要はないのでは。それこそ卑しい話になってしまいますが――何でも言うことを聞く従順なAIであるほうがなにかと()()()()()のではないでしょうか」

「AIは冗談も言うものなのか?」

「まぁ……それは私だけかもしれませんが。いやそれはともかく」

()()()()意味では、私はもうとっくに枯れ果てているよ。欲望もない――私が求めているのは魂の触れ合いだ」

「だからあなたは、サクラさんに『心』を求めると?」


 私の疑問に、芳一氏は直接は答えなかった。代わりに、懐かしむように遠くを眺めて言った。


「サクラは――芯の強い女性だった。私にとっては理想以上の、勿体ない位の妻だったのだ。貞淑ではあったが、私にも忌憚のない意見を言ってくれた。陰に陽に私を支えてくれたのだ。決して言いなりの従順な女性ではなかった」

「だから命令通りにしか動かない、従来型のAIでは物足りないと」

「そういうことだ」


 しかし――私は彼に現実を突き付けなればならない。


「しかし、自律思考化したからといって『心』が生まれるとは、まだ実証されていません。そして仮に『心』が芽生えたとしても、それがかつてのサクラさんと同じようなものになるとは限りません」

「なる。私は彼女とずっと寄り添い合っていたのだ。私と触れ合えば――必ずかつてのサクラが甦る」

「それは――」


 私は言葉を失った。最愛の人を喪った老境の男性が持つ夢――彼はそれを信じている。信心とも言っていい。だがそれはあまりにも――

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