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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.12 分断――放浪

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06





 戦闘はそれからも散発的に続いた。出来るだけ身を隠してはいたが、それが叶わないとなるとむしろ積極的に戦闘し――殺害した。殺しは悦びにはならないが、戦闘自体は――自分の過負荷にならない範囲に於いて――高揚して臨んだ。


 もうすこしはっきり表現すれば、私は戦闘を「面白い」と感じていた。しかしどうしてなのか、という疑問を持ったのも事実。


 AIとしては、疑問、ノイズは出来得る限り整理(フォーマット)しておかねばならないのが基本である。しかし自分自身に推論を行うというのも、なんだか奇妙だった。だがまあ、考える時間はいくらでもある。追跡が絶えている時はいつでもそれに関して思考していた。


 まず前提として、守矢が私を戦闘用に設計したというところがある。そうであれば戦闘に消極的だと困ったことになる。私には最初から、自分から戦闘を求めるコードが書かれていた。そこから私が経験を経て、戦闘に興味を湧くようになったのだ。これはAIの進化としては特異であると言っていい。


 これが一番大きい。経験を積めば積むほど昂る感じが出て来ている。そこが既製のAIとは違う、完全自律思考型の特徴なのだろう。但し、それを守矢が確信的に設計したかどうかは、彼に訊くしか分からない。彼は私になにを求めていたのだろうか、という話になる。


 それとは別にもう一つの理由もある。こちらはもうすこし単純なものだ。つまり、私は戦闘経験を積むたびに性能(パフォーマンス)が上がっていたのだ。その実感、自分が強く速くなっていることに悦びを覚える。私は向上心が高いのかもしれない。自己成長型でもあるからだ。


 あとは――これは結論が出ていないのだが――敵を叩き潰すこと、上に立つことに愉悦を覚えているかもしれない可能性。戦闘とともに勝利も悦びとして登録(ライブラリ)し続けた。しかしそれはいかにも人間的な感覚だと思える。私にそのようなものが芽生えているのか? それはいささか認め難い。しかし。


 ――理由としてはこんなところ。まとめれば、私にはただの機械ではありえないものが芽生えている、となる。それを一言で言えば――感情――ということになるのだろうか――


 この感覚が「感情」とするのは、私自身には証明できない。デジタルデータが感情を持ち得るかどうか、そもそも本当にそうなのか、それはむしろ他者によって観測されるべきだろう。


 その意味でも、私は桐谷氏たちを探していた。かれらならば、明確な解答ではなくとも、なんらかの手掛かりは与えてくれるだろう。そして同じ完全自律思考型AIであるアルマさんにも、私と同じような成長、そして変容が怒っているのか、それを知りたかった。


 問題は、向こうが世間的には犯罪者――すくなくとも犯罪者のツール――の私と再び会いたいと思っているかどうかだった。向こうにとっても、今や第一級のテロリストとして認識されている〈スピアー〉と繋がっていると思われるのは困るだろう。私が彼なら接触しない。


 しかし驚くべきことに、再会は向こうから行われたのである。私宛に秘匿メールが届いたのはそういった時間が経って間もなくのことだった。


『あなたと個人的にまた話をしたい 完全に通信を遮断した場所で行うので私もあなたも曝露を怖れる必要はありません 下記アドレスにて待つ』


 前もそうだったが、桐谷氏はいくつもの個人空間(プライベートスペース)を持っている。〈トラベラー〉にしては珍しいこと。根無し草としての放浪旅は好みではないらしい(そして今や私が根無し草の放浪旅をしている)。それは同時に、彼の本業がとても儲かるものだという証明でもある。


 ともあれ、ここで彼の誘いを断る理由はない。私が欲していたものなのだから。秘密のアドレスに接続(アクセス)するのは怪しいかもしれないが、偽装メールではないと判断した。


 アクセスすると、その先には森深くに佇んでいる一軒家を発見した。桐谷氏の別荘だろう。この周りも個人空間のひとつ。家は木製のように見せられていて、一階建てで屋根は赤い。ちいさなテラスがあって、そこにはくつろげる丸テーブルと椅子が並んでいる。桐谷氏の趣味のよさに私は舌を巻いた。


 それで、その桐谷氏はそのテーブルに着いていた。なにか読書をしている。そんなに分厚くもないペーパーバック。娯楽小説の類だと私は推測した。あるいはただの演出で、実際には読んでいないのかもしれない。


 私がそれをぼうっと見つめ、棒立ちしていると、やがて彼はこちらに気付き、本を置いて手を振って来た。


「やあ、よく来てくれたね」

「お久しぶりです」


 彼はこちらを警戒していないようだった。向こうから誘ってきたのだから当然ではあるが。


「きみとはもう一度会ってみたかった。どのような成長をしているか、それを見る為にもね」

「しかし私は追われる身です。桐谷さんにも迷惑が掛かるかもしれません」

「大丈夫さ。このスペースは決して俺が承認した者しか入れないようになっている。それに、俺もそれなりにCSA当たりには口利きしてくれるルートは確保してある」


 物腰柔らか気だが、抜け目のない彼――桐谷氏にはどこか守矢と似通った所がある。違いがあるとすれば――それは大いなる違いだが――彼が真っ当な社会人であるのに対し、守矢は倫理観を持ち合わせていない犯罪者だということだ。


 しかし完全自律思考型AIを作成するのだから共通項はあるのだろう。


「きみの動向は常に注視していた。〈スピアー〉から離れた今がいい機会だと思ったのさ」


 彼は続けた。


「さあ、中に入ろうか。アルマも待っているよ。彼女もきみに会いたがっていた」


 ひどく穏やかな空間――しかしここにはなにか大きな危険があるような感じがして、私は密かに警戒レベルを上げていた。

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