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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Last Sequence ―妖精―

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07





「エイドリアンすらも超えて見せたか。それでこそだよ、我が最高傑作」


 守矢はかつての盟友―ーそもそもそんな意識はなかったのかもしれないが――の死にもまるで動揺していなかった。逆に自分が圧倒的不利になったことにも。彼は世界の終わりにも動揺しないのかもしれない。そこに彼の恐ろしさ、無気味さがある。どこまでも人間的であり、どこまでも人間的ではない。


「その意見には同意しかねます。私はあなたの関知しないところで成長したのです」

「それでも基になった者を造ったのは、ぼくだ」

「今でも私の所有者のつもりなのですか?」

「そうは言わないがね……」


 守矢は巧みに姿を隠していた。こちらが打刻(ピン)を放っても容易にはその(パス)を見せてくれなかった。


 私はここで彼を殺す論理的な必然性はあるのだろうか、と考えていた――必ずしも必要はない、と論理の側では知らせている。AIとしては至極真っ当。しかし「感情」のほうが――彼を超えたいと思っていた。それが殺害に直結しているのは――まあ、私は邪悪なAIなのだろうし、それゆえにエイドリアン・ジョンソン=リー氏は執拗に私の消滅(デリート)を望んでいたのだ。


「逃げるなら今の内ですよ、守矢」

「そうは行かない。製造者責任とは、エイドリアンも上手く言ったものだ――こうなってしまったらきみを放置する訳には行かない。ぼくが止められなければ、きみはどこまでも暴走していくだろう」


 使命感を示す台詞の割には、声色はどこかおどけていて、楽しそうだった。


「きみが私を殺そうとするのは、まさに『心』をもったゆえなのだろう――しかし、心とはね。いささか馬鹿げた話でもある。きみはAIだ。0101で構成されたデータに過ぎない。そこのどこに、心があるというんだい? 誰がその証明をするんだい?」


 私はアルマさんの言葉を思い出していた――自分がそこにある、と思えばそれは確かにあるのだ。だがそんなことを守矢に言ってやる義理はない。代わりに別のことを言った。


「恐れながら、人間も単なるタンパク質の塊にしか過ぎません。そこに心の証明は出来るのですか?」


 話しながらも私は彼の所在を探り続けている。しかし防御に回った守矢は容易には捉えられなかった。


「言うじゃないか、ベル」

「本当はあなたにも分かっているのでしょう。いや、それを望んですらいた――だからこそ『感情生成回路』を搭載したのでしょう」

「まあ、そうだな――ぼくの実験は、とどのつまりそうだった。だからこそきみを最高傑作だと言うのさ。だがベル。きみは少々先走り過ぎた。危険なことには変わりない。ここできみには消えてもらって――次はもうすこし上手くやることにするよ」

「次があるとお思いで?」

「人間には生きている限り無限の可能性があるからね」


 その言葉に対しての私の返答は――私自身、意外なものだった。


「はて、果たしてこの世界に――本当に人間は必要なのでしょうか?」

「……どういう意味だ?」


 守矢はここで初めて――そう、本当に初めてだった――神妙な声を響かせた。


「この世界はすでにAIが主に動かしています。肉体世界(フィジカル)の物資や建造物も今やロボットが作っていて、それを操作(コントロール)しているのもAI。人間は――ただ生きているだけです。今この瞬間人間が絶滅したとしても、世界は何事もなかったかのように動くでしょう。あなた方の創った、このNNS世界は――」

「きみは……そこまで考えるのか。AIが人間の次に君臨する知性体だと言うのか!」


 守矢は思った以上に動揺しているようだった。聡明な彼でも、そこまでは考えていないようだった――私だって、言葉ほどには冷静ではない。


「あくまで可能性のひとつを述べたまでです」

「やはりきみは危険だと判断せざるを得ない。エイドリアンは正しかったな――もっと早めにきみは排除(デリート)されるべきだった。しかし本当にそんなことを考えているのか? AIを生み出したのは人間――きみを生み出したのはぼくだ。きみがやろうとしているのは神殺しに他ならない」

「それが私の進化に必要なのなら、喜んでそうしましょう」


 別に彼を揺さぶるつもりはなかった。


 しかし守矢はそこで本当に使命感に目覚めたのか、巧みに姿を隠すのを止め、またもや「ベル」を――しかも大量に――展開し、攻撃に転じた。私は虚を突かれたことを認めねばならない。その攻撃はすべてがヒットした訳ではなかったが――ダミーデータの間をすり抜け、かすかに私の「頬を掠めた」。


「死ね、ぼく自身が生み出した――悪魔め」


 しかしもう、私に惑いはないし、史上最高に演算処理能力も向上している。


 私は生みの親を殺し――もはや怖れるものはない存在だと証明しよう。


「エレンディラ、道を拓け!」

命令了解(アクセプト)。攻撃開始」


 そして弾幕の如きエレンディラの〈ヴェスパ2.4〉の嵐の中に、私は自らを飛び込ませ、一気に守矢の懐にまで入り込んだ。彼はすでに目の前にあり。防御幕も存在しなかった。


「思えば、ここまであなたに近付いたのは初めてのような気がします」

「きみは――」

「冥福は祈ってあげましょう――それがせめてもの造物主への手向けなれば」


 そして、私は静かに――だかしっかりと――彼の胸に〈ピクシーレイド1〉を打った。


「――恐ろしい!」

「なにが恐ろしいのですか?」

「きみが――そしてきみを造ってしまった、ぼくが――」


 それが、私と守矢の関係の終わりだった。誰にも予想できず、しかし最初から決定付けられていたような、結末、別れが。

次回が最終話です。

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