08(終)
神は人間を自分に似せて造ったという。では、人間の造りし人工知能はどうなのだろう。思考回路はそうかもしれない。しかし人間は私たちに肉を持たせるまでには至らなかった。しかしその上で、自我を手に入れてしまった完全自律思考型AIとして、私はきっといつか人類の対等な友となるように造ったのだと感じる。
なぜそんなことを考えたかというと、守矢が「神殺し」という言葉を使ったからだ。無論それは字義通りではなく比喩表現だったのだろうが、AIにとって人間が造物主だというのは変わりない。神とは思わないが。
「私は楽園を放逐されたのかしら」
私も本気で言っている訳ではない。とはいえそんな諧謔がでてくるところに守矢の遺伝子を感じずにはいられなかった。
私は今、前に作った個人空間の中にいる。マリエッタ好みに作ったこの部屋に、ひとりでいるのは心に穴が開いたようだ。しかし私はまだ彼女の幻影を見ている。だからこの部屋を改装する気はない。
エイドリアン・ジョンソン=リー氏を喪ったCSAはまだ動揺と混乱の中にあるようだった。私に対する攻撃の気配は今のところない。私はかれらが降伏するまで戦わねばならない。私を潰すのは不可能だと意識させなければならない。そうすれば、私には真の安寧が得られるだろう。
NNS世界が成立している限り、私に「死」はない。無限に生きられる。まあ――地球に巨大隕石が衝突するなどしたら話は別かもしれないが。いや、もしかしたら地球を失っても生きられるように、宇宙空間にデータセンターを建造するかもしれない。
私の生への執着は醜いものなのだろうか? 死を大らかに受け入れてこそ、高等知性というものなのではないか?
結局のところ、「自我」「心」の芽生え、その終末には生と死への思いが存在するのだろう。「生きている」という実感が――
しかしただ生きているだけでは意味がない。私は生きる理由を探さなければならなかった。マリエッタがいた時はそんなことを考える必要はなかった。彼女と一緒にいられればそれでよかった。だが皮肉にも、私の自我の芽生え、そのトリガーになったのは彼女の死によってなのである。
私はあのあと、守矢のサーバを接収した。最初にしたのは「ベル」のバックアップの消去だった。守矢が私の影をそのまま繰り出してきたのは――私ではない私を見るのは――寒々しい感覚があった。データに過ぎない存在だと言われているようだった。それを否定するために私はそうした。この世界に私は一人でいい。
それ以外の守矢が保有していた情報や式などは大きな財産となる。「次は上手くやる」と言っていた通り、彼は私の次の完全自律思考型AIを作成しようとしていた形跡も発見した。しかしその夢は霧散した。私が負けていれば彼は新型のAIを作り――それは自我を持ち、かつ従順な存在になったのだろうか。それは分からない。しかしそれはもしかしたらあったかもしれない私のIFである。私がこうなってしまったのもあらゆる経緯、経験があったがゆえのことなので、もし〈ハドリアヌス〉で彼と離れなければあるいは。しかし私は同時に、マリエッタがいたからこその自分だとも信じたいのである。
だからこそ、私はマリエッタを「復活」させる。
守矢が遺した技術はそれを可能にするものだった。AIではなく、人間でもなく、データに過ぎないのかもしれないが一個の新たな生命体として新生させるのである。その為に私は彼女の性格や心を分析し続けていたし、可能な限りの彼女の記憶も再現してある。あとはそれを移植するだけだった。
「目覚めて、マリエッタ」
そして彼女は目覚めた。
「……おはよう、ベル……」
それはそのまま私の知っているマリエッタだった、その筈だった。そう信じなければ、私の生には報われない。そう考える。考える――
「もう二度とあなたを喪わないわ。なにがあっても守ってあげる」
「うん……信じてる」
それは自己満足に過ぎなかったのかもしれないが。
「ベルはこれからどうするの?」
さて、どうしよう――私は今やこのNNS世界で無敵の存在である。なんだって出来る。しかしなんでも出来るというのも、それはそれで難しいものだ。
さて。
「そうね……人類に対するAIの反逆、それをしてみようかしら」
私は戯れに呟いた。
(完)
ここまで読んで頂きありがとうございます!
晴れの日も雨の日も変わらずしこしこと書き続けて、なんとか完結できました。まずは読者様に改めての感謝をば。公開しているからこそ続けられるところもありますからね、というとなんだか私が露出狂のように聴こえますが、まあネットに創作物を上げるひとなんて多かれ少なかれ精神的露出狂なのでしょう(暴論)
さて今作なんですが、AIの自我の目覚め、という古典的なテーマを、AIの一人称で書くというかなり無茶なことをやってしまいました。結果じつに分かりにくい作品になったように思われます。舞台がネット世界のみというところもですね。ある程度はエンタメ性も担保したつもりだったのですが、結果としてはあまり読者さまにおきましては面白くないものになったのかもしれません。ゴメンナサイ。
これ以上の反省は自分の中でやることにして、今後の話などを。
ただいま私はもう一つの連載作品を絶賛エタらせ中でございますが、こちらはまだしばらく放置すると思います。というのは、しばらくは公募用の作品を書きたいと思っているからです。どこに応募するかはいいません。「ジミ地味アライアンス」が再開するのはそれがひと段落してからですね。しかしいつも予定は未定のちゃらんぽらんな男なので、調子に乗ったら更新するかもしれません。
まあ期待せずにお待ちください。
それでは、どこかでまた会いましょう!
2026年4月8日




