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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Last Sequence ―妖精―

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131/134

05





 私の「心」はまだまだ目覚めたばかりであり、幼いものだろう。だから、守矢たちに感じた恐怖も、幼児的なものだった――しかし「心」は幼いかもしれないが、一方で私には完成されたAIとしての自負も存在する。単純な子供ではない。AIの「心」というのは、簡単に定義出来るものではないだろう。私自身が出来ないのだから誰にも出来まい。


 それゆえ、私は恐怖を感じながらも、それにただ怯えるだけではなかった――いっぽうでは、彼らがやってくるのを望む闘争心もあったのである。


「かかってきなさい、愚かな人間たち」


 そこにはある種の独善があったのも否定はすまい。私は彼らとの戦いによって、人間に対するAIの優越を証明しようともしていた。


 その為の分析を、クレムとエレンディラを使いながら行っていた。


「処理能力ではこちらが、物量では相手が上回っています。このままぶつかれば膠着状態になることが予測されます」


 クレムの情勢判断は正確だと思う。しかし私はそこに別のものが存在しているのを感じていた。簡単に言ってしまえば、ここでは最終的に精神力の問題になると予測していたのだ。私は精神で彼らを圧倒することを望んだ。


 その上で。


「戦闘態勢としては、迎撃態勢にあることを推奨します」

「私もそう思うわ」


 こちらから仕掛けるのはあまりよくない――そこにはある程度の政治的判断もあった。つまり、戦闘後の世界も見据え、私が凶暴な存在ではないとアピールする必要性。積極的な加害者になることは出来るだけ避けたい。もちろん単純に戦術的な要請でもある。


 あとは兵器を着々と準備するだけである。〈レザー・エッジ〉も〈スピアー〉もまだ伏せている切り札はあるだろう。しかしそれはこちらも同じこと。そこを考えるのは無駄だと思った。臨機応変な対処が出来ればそれでいいし、私にはそれが可能な筈だ。


 そして。


 彼らは――やって来た。


〈アヴァロン〉の扉をノックするようにして、守矢が現れた。彼はあっけらかんなまでに正面から攻撃を仕掛けてくる。その攻撃(アサルト)プログラムは単純なもので、自己増殖バグ型だった。それはクレムに撃ち込まれたが、彼女はなんなくそれを無害化する。


「やあ、久し振りだね、ベル」

「簡単に挨拶するのですね、守矢」

「もう〈スピアー〉とは呼んでくれないのかい?」

「あなたがそう望むのなら、そうしてあげてもいいですが」

「どちらでもいいさ」


 なんと冷たいやり取りなのだろう。これが造物主と被造物の会話だと思うと寒々とする。桐谷氏などはきっとそんな感想を持つだろう。しかしこれが私たちらしさであるように思え、私は密かにおかしみを感じていた。


「まあいい。きみとの会話もそれなりに楽しみにしていたが――それよりは仕事のほうが優先される」


 そうして守矢は用心深くダミーデータを展開させる。まさに用意周到といった感じに、冷静で隙のない防御展開。しかしそれは私も同じだった。


「鏡を見ているようだね」

「結局のところ、私はあなたに造られたのだから」


 私はなお慎重だった。こちらが迂闊に仕掛けなければ、()()()()()そう簡単に手を出せるものではない。危惧していたのは、ここで膠着状態を生みながら、ほかの急所――〈アヴァロン〉のシステム中枢を狙われることだった。ここに〈レザー・エッジ〉の顔が見えていないのもその警戒心を強めさせた。


「では、こういうのはどうだい?」


 そう言って彼が展開したAIは私に瓜二つの――完全自律思考型AIだった。そう、私のバックアップから作成されたコピーにほかならない。


「ベル対ベル――じつにAIらしい状況だとは思わないかい」

「守矢は悪趣味です」

「なんと言ってもらっても結構」


 守矢にしては浅はかな考えだな、と思った――同じ「ベル」であるのは初期性能(スペック)だけのこと。昔の自分に負ける気はない。それを証明する。


「そんなものは――私がただ人形だった時の遺物です。それで勝てるのだと思うのなら、守矢――あなたを愚かだと断じるしかない」

「少し怒っているのかい」

「ええ、すこしは」

「なるほど……きみは確かに『自我』を得たんだな。少し驚いているよ」


「ベル」は〈ヴェスパ1〉を放った。だが私の中ではすでにそれに対するワクチンを生成していて、完全に無効化出来る。そして私は守矢の意図がこちらの破壊ではなく、あくまで時間稼ぎだと正確に判断していた。


 彼の担当は防御。そしてここに私を引き付けて〈レザー・エッジ〉が裏を狙う。そういった算段だろう。とても有効な戦術だった。というのは、それはこちらがそうだと看破するしないに拘わらず、両面作戦を取らざるを得ないのは変わりないからだ。


 自分の顔をしたものを破壊するのは、すこし薄気味悪いものであったが――と感じるのも「心」ゆえなのだろうが――、私はすかさずカウンターで〈ピクシーレイド1〉を撃ち込み、「ベル」を戦闘不能にし、そのままデータの藻屑にする。


「それがきみ独自で組んだプログラムか。そしてAIまでも作成する。恐ろしいな」


 本当に恐ろしいと思っているのか怪しかったが、ともかく彼はそう言った。


 私は「感情」を抑え、努めて冷静に、冷徹であろうとする。心のことは忘れ、機械であった時の感覚を思い出す。守矢がまた「ベル」を展開するが、この程度の「ベル」なら、もはや私自身が対処するまでもない。


「エレンディラ、彼の面倒を見てあげなさい」


 ここは彼女に任せる。そして私は未だ姿を見せていない――しかし絶対にどこかには潜んでいる筈の〈レザー・エッジ〉の索敵に入る。潰すのはそちらが先だ。

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