表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.15 生活――博打

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/134

05





「いいかい、ベル。相手を出し抜くにはまず撒き餌をばらまくんだ」


 というようなことを、かつて守矢は私に講義した。彼らしい意見だと言えるし、そこには私も異論はない。ただ、ここまでそれを実践する機会は無かった。


 それが、今。


 当然ながら、AEも裏操作については十全のセキュリティを施している。AIを活用してイカサマをしようなどという発想は、さして奇抜でもない。しかし、確率操作が明らかであるからこそ、そこに付け入る隙があるのも確か。


 つまり、これはかれらと私の能力合戦である。


「撒き餌、ね……」


 慎重にならざるを得ないのは当然。


「怪盗ベル」の噂話が下火になっていたのは僥倖であった。目立つのは非常によくない。ひっそりと、仕事を果たす。マスターのためではなく、私自身のために。そう、私は初めて私の為だけに仕事(ビズ)をこなすのだ。


 ――いや?


 そうではない。私は自身の為だけに仕掛けようとはしていなかった。そう。そこにはマリエッタの存在がある。彼女がいて、私がいて――


 そのことはあとで考えよう。


 私は走査(スキャン)を始める。このアーカム・オーバル・リゾートのシステム中枢、ひとの夢を吸い尽くし、たまには少しだけ吐き出してあげる、その俗悪で慈悲深いシステムのことを。


 考えるまでもなかったが、そのセキュリティは強固である。ここはCSAではなく彼ら独自のシステムを使っているらしい。自分たちの縄張りには入れさせないということか。そう言えば管理主義的なCSAと自由主義的なAEではビッグ・トラストともいえども若干の温度差がある、と守矢が言っていたような覚えがある。


あやとり(コード・ブレイク)」は難解なものになるだろう。しかし難しい課題を与えられると私はむしろ高揚してくる。そういった負けず嫌いの性質も、また――いや、それはもう考えまい。


 現実的な対応。


 今の私はまだ「視て」いるだけである。まだ仕掛けて(ラン)いない。じっくりと、その様子、構造を見極める。視れば見る程複雑――だが、彼らはその堅牢ぶりにあぐらをかいているようにも見える、本来なら、私がこの場所(ポジション)にいるだけでもすでに警戒すべきなのだ。私なら、そうする。


 あるいは、賭博システムの運用に手一杯で、防衛にはそこまで気を回せないのかもしれない。それならそれで好都合なことだ。しかし一歩踏み込めば一気にその防衛システムは動き出すだろう。


 わたしはここでは戦闘を求めていない。あくまで静かにシステムを「盗む(ハック)」そして足取りは残さない。そういう仕事が求められている。それは従来は私の美学に反するもの――ということは、つまり守矢の美学に反するものだった。それを平然と行おうとしているのは、私が彼の軛から離れつつあるのを示唆している。


 と、思う。


「そういえば、あやとり(コード・ブレイク)は久しぶりね」


 最近は私の能力は専ら戦闘に費やされていた。それで性能(パフォーマンス)が向上してきたのは確かだが、本来はこういった仕事向きに作られたAIの筈だった。なんだか懐かしい感じがしたのは、そのせいだろう――その、「懐かしい」という感覚も人間的なものであるが。


「なんだか燃えてくるわね」


 自分のために、自分の能力を使役するのは――その――興奮する。嬉しい。それは言うなれば「野心」と言うべきものだった。ここから本当の自分が始まる、という予感。そしてそれはマリエッタと共に――


「私、なんであの子が気になるんだろう」


 ここまで来ておいて、今さらそんな疑問が浮かび上がってくる。しかしそれはあとで考えればいい、と私は演算した。今は仕事を完遂すること。


「クレム、行きなさい」

命令了解(アクセプト)。状況を開始します」


 彼女を汚れ役にするのはすこしだけ罪悪感があったが、それが最適解でもあった。つまり、クレムを前面に出し、ハッキングすると見せかける。そして注意を引く。ここでは彼女との連結(リンク)を切断している。そこがこの作戦の不安定さでもあるのだが、仕方ない。


 これが、「撒き餌」である。


 その裏で私は忍び込む。狙いはただひとつ、シンプルに。AIとして、ここのシステムの全容把握にも興味がないではなかったが、ここで問われるのはスピードと隠密性だったから、その食欲は我慢した。私にはそれができる。目的の為の最短ルートを希求すること。


 そして私はお宝の部屋に辿り着いた。戦闘も起こっていない。それはクレムが一手に引き受けている。私自身は何重にも暗号化を施し、その正体を探らせない。


「しかしここからが本番ね」


 コード・ブレイクを迅速に行わなければならない。時間が過ぎる程に危険性は増す。そして「ワンダフル・レーシング」の扱っているデータは途方もなく膨大であり、それ自体が多くのAIを使用して運用されている。


 私はまずコードを打ち、そのAIたちを凍結(フリーズ)させる。それからあやとり。慎重繊細、しかし速く。その相反する要求を私はこなした。


 そのブレイクした情報を見るとゾクゾクしてくる――私には存在しない筈の感覚――それは――性的興奮と似たようなものだった。


 そして「ジャックポット・ウィン」の確率操作中枢(センター)に辿り着く。そこは大したもので、過去1年間のデータと今後1年の予定がすでに組まれていた。たまには緩めて、たまには締める――その確率がここに記載されていた。


「まるでアカシックレコードね」


 しかし、そこにイカサマを加えるのである――私は気付いていなかった。それは初めての、明らかな、人間に対するAIの反逆だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ