03
今は〈ジャンクヤード〉に退避しているが、このままでは終わりたくないという気持ちは確かにある。別に輝かしい栄光を求めている訳でもないが、かといってひもじいのも嫌である。
なにより、マリエッタをこの哀しい世界から解放してあげたい。
「別にあたしはこのままでもいいよ?」
欲のないマリエッタだが、実際のところはつらいに決まっているのだ。だから私を頼りにした――と勝手に解釈している。全然論理的ではないが、もはや非論理的な私を不思議に思うこともない。
「私が、このままではいけないの」
「ふぅん、そうなんだ」
のんびりした日々が続いていて、防衛に駆り出される時――実際にCSAが襲って来ることはほとんどなかったが――以外は、ずっと個人空間でマリエッタと遊んでいた。対戦ゲームなどは私が完全に勝ってしまうため、協力ゲームで楽しんだ。
と同時に情報収集も欠かさず、そして大金をせしめる算段も思考していた。可能性は色々あった。しかし私が自身でも幼いな、と思うのは、コツコツ稼ぐのは考えず、とにかく一発逆転の策を考えているところである。
それは今のうらなりな生活の裏返しでもある。今の私の収入源は〈ジャンクヤード〉の防衛と、せこい盗みでなりたっていた。大きい盗みは今の私の現状ではしにくい。
とにかくせこせこしている。余裕もあまりない。こんなことでいいのか、と悩む日々。しかし、この「悩む」というのも新奇なものではあった。普通のAIではきっとありえない思考形態――それをもたらしているのが、マリエッタであるのはもう間違いなかった。
私は私のままでいい。だが彼女は救いたい。
「あたしもベルを手伝えたらいいのにな」
「マリエッタはなにもしなくていいの」
「それはヤダ」
まさか危険な仕事をしてもらう訳にもいかず――しかしマリエッタは強情でもあった。私は彼女をなだめるのに多大な労力をつぎ込んでいた。
「あたしだっていつまでも子供のままじゃいられないもん。いつかは自分で稼がないと。それは早ければ早いほどいいの」
確かにマリエッタの意見にも一理あった。永遠に私が養うわけにもいかない。彼女もいずれ大人になる。心理的には対等のつもりだったが、彼女は生活面でも対等であることを望んだのである。
「悩み」はどんどん大きく、深くなっていく――それは私をさらに変容させるものだった。マリエッタという存在が私の中に入り、そこでどんどん変わっていく。正直に言おう。私はそれが――気持ちよかった。
「ベルはなにか凄いことができると思うんだけどなぁ」
彼女の期待に応えねばならない。一発逆転、このひもじい状況を引っ繰り返せる一手が――といったところで私が出した回答は、正直どうかと思ったが、それ以外に考えつかなかった。
結論から言えば、私はギャンブルで稼ごうと思ったのである。
もちろん、馬鹿正直に賭ける訳ではない――AIたる私は、イカサマを仕掛けられるのだと思った。直接的な盗みよりも足は着きにくいとも判断した。
「わあ、なんだか面白そう」
その話をマリエッタにした時、彼女は反対するのではないかと推論したのだが、どうにもあっけらかんとそう言われたので、むしろ困ってしまった。
「これは悪いことなのよ」
「そんなの、どうでもいいじゃない。お金があれば――」
「マリエッタも、〈ジャンクヤード〉を出たいと思っているの?
マリエッタは少し思案するように眉をひそめたあと、あまり明るくない顔で言った。
「うーん、あたしはこの場所しか知らないけど……そんなにいい場所とは思わない。外の世界を見て見たいって、ベルのお話を聞いてると思うかな」
「それなら――あなたの希望を叶えてあげる」
私の計画では、協力者が必要だった。マリエッタが自分でも稼ぎたいというのなら――手伝わせてやろう。情操教育にはあまりよろしくないかもしれないが、これっきりの一発勝負なのだから、まあ問題はないだろう。
「さあ、行きましょう」
私たちが行く場所――アーカム・オーバル・リゾート。
そこにはあらゆる賭博が行われている。莫大なマネーが動いている場所。賭博場はこの世界でも色々あるが、ここが一番大規模である。そして言うまでもないが、そういったアミューズメント事業の元締め、胴元はAEである。それがギャンブルを選んだ理由である。3大企業の中ではAEが最も与しやすい。
「化粧」が、必要だった。小さい少女と、それよりはちょっとだけ大きい少女という組み合わせがそんな鉄火場に行くのは無理がある。そういう訳で、私はそれ用の容姿を作成した。
「これが、あたし……?」
マリエッタについては、彼女がそのまま20代半ばまで成長した感じを出した。それが実際そのまま成長してくれるかは分からない。ある程度は私の願望も入っているかもしれない。すこし清純にしすぎたきらいもある。しかし私は彼女にはぎらついた女にはなって貰いたくなかった。
「なんだか、くすぐったいな」
「いい? ひとはアバターを与えられたら、それに合わせた『フリ』をしなくちゃならないのよ」
「子供っぽかったらダメってこと?」
「マリエッタは私を手伝いたいんでしょう。それくらいは覚悟しなさい」
「うん」
マリエッタは素直だった。
私自身については、全く別のアバターを用意した。長身ですっとした美貌の女性である。あるいはそれは、少女型に作った守矢への意趣返しだったのかもしれない。彼は見ていないだろうが。
もしかしたら、私たちはレズカップルに見られるかもしれない――しかし、賭博場のようないかがわしい場所ではむしろそのほうが好都合なのかもしれない。
そして勝負の時は静かにやって来る。




