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サイバー・フェアリィ:反逆のAI  作者: 塩屋去来
Sequence.15 生活――博打

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02





 ともあれ、新生活。


 実際のところ、孤独でいるよりかは誰かがいた方がいいのは間違いない。私はAIだから、基本的に人間の役に立つことを使命とするように設計されているのである。人間ならひとりでもいいかもしれないが。完全自律思考型といってもその辺りの事情は変わらない。


 とは言っても、共に生活するというのは奇妙なものである。


「うれしいな」


 マリエッタは吃驚するほどに天真爛漫だった。それでいてノンビリもしている。この殺伐としたNNS世界に於いて、そんな個性(パーソナル)を保てているのは奇跡と言ってもいい。まして彼女の生い立ちからすれば、まるで信じられないことである。


「これでひもじい思いをしなくても済むかな」

「さあ……そこはあんまり保証できないけれど」

「でもベルは賢いんでしょ。だったらなんだって出来るよ」


 勝手に期待されている私だが、正直なところを言うと困っていた。私は稼ぐ手段をあまり学習(ラーニング)していない。簡単に言えば「盗み」しか知らない。〈ジャンクヤード〉の防衛を頼まれていて、そこから幾らかは貰えるだろうが、たかが知れているだろう。よってなんらかの新しい仕事(ビズ)を考えねばならない。


 しかし人間を食わせるためにAIがあくせくするというのも――


 それでもマリエッタは放っておけない。彼女をパートナーと決めたのなら、腹を括るしかない。


 それはそれとして、私は取り敢えず自分の個人空間(プライベートスペース)を作成し始めた。「家」が欲しくなるというのも、私の変容のひとつなのだろうか。そんなことを考えつつも、どんな内観(レイアウト)にしようかと模索しているとそれが中々興味深い作業であることが判明した。


 守矢のそれのような殺風景なものにはすまいと思った。マリエッタも住むからだ。そしてそこは絶対安全空間にもしなければならない。複雑なプロテクトキーを構成する必要がある。それを教えるのはマリエッタだけだ。


 色々と試行錯誤して作っていく。地味な作業ではある。だが地味な作業ほど得意なのがAIでもある。


「なんだか楽しいね」


 その作成に当たってはマリエッタの意見を全面的に受け入れた。もしかしたら、彼女の為のスペースとも言えるかもしれない。しかし彼女はそこまでメルヘン趣味でもなかった。全体の配色は暖色にすること、窓みたいなものがあったらいいというもの、そして一つだけ少女っぽかったのが、うさぎのぬいぐるみを希望したことである。


 ただのうさぎのぬいぐるみではちょっと面白くないと思ったので、「不思議の国のアリス」に出てくる、懐中時計を持った擬人化された白うさぎにした。彼女はことのほか気に入ってくれた。しかし彼女は「不思議の国のアリス」は知らなかったようだ。今度語り聞かせてやってもいいかもしれない。


「AIって不思議だね。まるで生きているようなのに、生物じゃないんだもん」

「私が『生きている』ように見える?」

「うん。ベルは――あったかいよ」


 マリエッタは(当然)気付いていなかったようだが、それはAIたる私にとっては中々に難しい命題であり、それを突然突き付けられたのである。生きている、とはどのような状態を指すのだろうか。思考?「我思う、ゆえに我あり」という哲学者の言葉もある。とすれば、肉なきAIも「思考」していれば、生きているということになるのか?


 もうすこし現実的な思考をすべきだと思った。こういった形而上的な推論をしていると、なにか「熱く」なってしまうのである。私は実際的で実務的なAIだった筈なのに。


「そんなむつかしいことはあとで考えましょう」

「そんなにむつかしいかなぁ」


 どうやらマリエッタは感性で生きているようである。子供というのはそんなものかもしれないが。


 ともあれ私のスペースが完成した。誰にも邪魔されない、私の城である。誰かを招待する気もない。マリエッタと、一緒に――


 もしかしたら、私が「安全」を手に入れたのはこれが初めてなのかも、と思った。とすれば私はひどく殺伐な世界で存在していたものだ。


「なんだか、こんなにゆっくりできるのも久し振り。いや、初めてかな?」

「ベルは忙しくしていたんだね」

「だって私はAIだもの。常に思考して、情報を集めて、活動するものなのよ」

「休む必要はないの?」


 休む。そんなことを考えたこともなかった。それはとても人間的なものだと分類している。私は睡眠は必要ない。24時間活動し続ける。そんな私が、休む?


「ノンビリしたらいいと思うよ」

「マリエッタは優しいわね。でもそれは私には必要ないの」

「ふーん。ベルは働き者なんだね」


 働き者とか、そういうことではなくて、そういう機能が作動しているだけなのだが――と説明しようと思って、止めた。マリエッタにそんなものを教える意味はない。


 とまれ、私の活動拠点は出来上がった。だがここからが本番。マリエッタを食わせていかなければならないし、私も「(ホーム)」であり「本体(コア)」でもあるサーバを維持管理しなければならない。それ以上にも、もっと高性能なCPUも欲しいし。メモリも増設したい。私はもっと高性能になりたいと思考している。


 ここで、至上命題に立ち戻る。


 具体的に、マネーを稼ぐことを考える。それも大金をせしめる。そのためのアイディアはマリエッタと話している内にボンヤリとだが浮かんできたのだった。

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