392.プロローグ -叫び-
「お前は、自分で自分の人生を選んできたんだな……カナタ」
――森人の少年は言った。
カナタは簡単には頷かなかった。
だが、それが森人の少年にとってはカナタが自分の人生を選んだ証拠にも思えた。
自分だけの力で生きてきたとは決して思わない心に頷く。
本当に気に入らないな、と森人の少年は笑った。
「恵まれたって? ああ、そう……お前が言いそうなことだな」
カナタは、自分は人に恵まれた、と森人の少年に言った。
少年にとっては虫唾が走る回答だが、カナタは本当にそう思っているようだった。
ないはずの片目に、強い意思が未だに宿っているかのよう。
カナタは小さい頃に世話になった人達の話を嬉々として語りそうになったが、何かに気付いたように口をつぐむ。
「は? 魔術契約? 人間の世界って面倒だな、過去も話させちゃくれないのか」
カナタが語れない理由を聞いて、森人の少年は人間社会の面倒さを笑った。
少しして、自分達も似たようなものだと思って笑いは乾いた。
自慢話をできなかったカナタの少し落胆した表情が、少年の溜飲を下げてくれた。
「とにかく、お前はお前がやるべきことをやってきたってことか」
森人の少年は、カナタを羨んだ。
本人は恐らく認めたくはなかった。
最初に会った時から、カナタのことが気に食わなかったから。
でも、そんな理由でカナタ自身を貶めるつもりはなかった。
本当にただ、羨ましかっただけ。
自分の道を、自分で選んできた人間界からやってきた少年のことを。
「だけどさ、こうも思わなかったのか?」
だから、少しだけ意地の悪い質問をしてみたくなった。
カナタという人間は真面目で、どんな言葉であろうと真っ直ぐ受け止めるとわかっていたから。
「選ぶことは贅沢で」
――俺はお前のことが気に入らない。
森人の少年は心の中で、叫ぶ、
「選ぶことは億劫で」
――本当に、気に入らない。
問いを投げかけている内に、自分がとても醜い気がして頬が引きつった。
「選ぶことは、責任を伴うから」
――お前が嫌いだよ、カナタ。
内に溜まる澱のようなものが心を気味悪く撫でていて。
「誰かが、自分の人生を選んでくれれば楽だったのに、ってさ」
言葉をぶつけるように、焚火の前で森人の少年は声を荒げてしまった。
カナタは驚く様子もなく、ただその話を聞いていた。
「そうすれば、苦しくなることだって……少なくなるだろ……? 他人に責任も重圧も全部、背負ってもらえるんだから……。そうしてもよかったんじゃないのか?」
カナタを殺せという命令を受けて訪れた、森人の少年の叫びを。
いつもありがとうございます。らむなべです。
第十五部「王の盟約」の予告兼プロローグとなります。
本格的な更新は来月からになるかと思いますので、少々お待ちください。
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