おしえてメフィ先生1
「ごきげんよう! スターレイ王国に……いや、全世界に住むわたくしの支持者達! 今日はありがたくもメレフィニスお姉様の魔術授業……名付けて! 教えてメフィ先生の時間よ!」
「わー……」
あまりにテンションの高いメリーベルと、パチパチ、と拍手するメレフィニス。
メリーベルは学院の制服を、メレフィニスは魔術師らしいローブを羽織って、度の入っていない丸眼鏡をかけている。
「ところで、あなたを支持する変わった人なんているの?」
「お姉様、現実で刺すのはやめてくださいまし……この縦ロールに魅了された殿方がいらっしゃるかもしれないでしょう?」
「へぇ、そんな変わり者がいるのね」
「お姉様が辛辣ぅ……」
二回刺されて瀕死のメリーベルは涙を飲み込んで顔を上げる。
まだ見ぬ自分の支持者に向けて、精一杯のポーズをとった。
「ま、まずはわたくしの制服姿を見つめる機会を与えてあげてよ! 制服姿が眩しすぎる? 勘違いしないことね、眩しいのはわたくし……と言いたいところだけど、メレフィニスお姉様のローブ姿には負けるわね」
「ローブって地味じゃあない? あんまり好きじゃないのよね……それにこの眼鏡もレンズがないのに必要なのかしら?」
「あのメレフィニスお姉様も、わかっていないんですのね……」
ふぅ、やれやれ……と言わんばかりのため息をつくメリーベル。
メレフィニスは自信満々なメリーベルに目を剥いた。
自分の前でここまで自信満々なメリーベルは珍しい。
「こちらのほうが、先生っぽいではないですか!」
「……………そう」
腰に手を当て、どや顔で断言するメリーベル。
少しの間を置いて、メレフィニスはさっき覚えるべきだったかもしれない妹への気遣いを覚えた。
今メリーベルは笑顔なので、何事も遅すぎるということはないのだろう。
「それではお姉様、先生らしく魔術の授業をしてくださいな」
「わかったわ。それなら、魔術滓について少し教えるとしましょうか」
いつの間にか現れた黒板の前にメレフィニスは立つ。
生徒役であるメリーベルは机に座った。
「そもそも魔術とは、魔力というエネルギーを使って特定の現象を引き起こす技術のことを指すわ。頭の中に描いた術式を、魔術名を唱えることで現実に発現させるのだけれど……ここが魔術師になれる者となれない者の差が一番でるところね」
「どうしてですの?」
「術式は知らない人からすると図形のようにしか見えなくて、その図形から現象としての魔術をイメージするのが難しいの。カナタが魔術を使えるようになったのは魔術滓集めが趣味で、魔術滓の中にある術式の欠片を自然と魔術と結び付けられていたからというのが大きいでしょうね」
「なるほどですわ……」
メリーベルは熱心に頷く。
前までだったら、平民が魔術を使えない理由など興味も示さなかったろうに。
一応、彼女も成長しているということだろう。
「魔術滓はその魔術が不完全だった時に生まれる魔力の塊よ」
「先程の説明から察するに……魔術滓の中に術式の欠片があるのは、術式が魔術という現象になりきれなかったから、ということですの?」
「ええ、正解よ」
メリーベルはぐっ、と拳を作って喜びを噛み締めた。
勉強の喜びとは得てして、こんな小さなきっかけと達成感である。
「魔術滓は教育や研究の観点では、魔術が不出来であることや使い手の不調をわかりやすく知れるから多少は便利なところもあるけれど、どんな魔力技術にも転用できないっていう部分が厄介過ぎて嫌われているのよね」
「わたくしも不思議に思っていましたけど、魔力の塊なのに使えないのかしら?」
「ええ、魔力の塊と言っても純粋な魔力ではないのが問題ね。破壊もできないから研究施設なんかではとにかく場所も取るの。魔術師にとっては不出来の証明で、研究施設にとっては邪魔な物……時間が経つと消えるせいで宝石のように加工もできないから、どの方面からもごみ扱いされているわ。ありがたく思っているのはカナタぐらいね」
「カナタは変ですものね」
「ええ、とっても変わっているわね」
顔を見合わせてにこっと笑うメレフィニスとメリーベル。
カナタに対する変という評価が二人にとっては共通して、褒め言葉なのがわかっているからこそだった。
「その魔術滓を何とか使えないか、と宮廷魔術師の教育機関であるアプレンティスでは研究されていた時期もあったみたいだけど、今は誰もやっていないわね。当時書かれていた論文の中には、ごみはどこまでいってもごみのままだった、これに時間を割けば割くだけ無駄、と著者の怒りが滲み出ている一文が書かれているものも多くて、一見の余地ありよ」
「今もそういう扱いだから、察するものがあるわ……」
「ええ、カナタみたいな例外もいるから、いつか利用方法が見つかるかもしれないわね。でももしかしたら……宝探しのお宝役に使うくらいが一番なのかもしれないわ」
「つまり、わたくしのようなものということですね!」
自信満々に言い切るメリーベルに、沈黙が流れる。
徐々に自分が何を言っているのかを実感したのか、どんどんと肩が縮こまっていった。
その姿はあまりにも小さい。自慢の縦ロールですらどこか自信がなくなっていくように見える。
「あなたそれ、自分で言っていて悲しくならないの?」
「……今日はここまで…………教えてメフィ先生でした……」
「ああ、終わるのね。それじゃあまた」
◆
「みたいな! こんな感じで至らぬ生徒達にメレフィニスお姉様が教えるのはどうでしょう!? メレフィニスお姉様は教師が似合うのでは!」
という妄想を、メリーベルははしゃぎながらメレフィニスに語る。
メレフィニスは訝しみながらも一つ、気になったことをメリーベルに問う。
「ねぇ、何で丸眼鏡が先生っぽいの……?」
「先生といえば丸眼鏡ではないですか! 常識ですよメレフィニスお姉様!」
「そう……? 常識なの……? 私が知る教師は誰もかけていないのだけれど……?」
話していても、どこか噛み合わない姉妹。
しかし溝のなくなった今、二人の相性は悪くないようではあった。
「それとメリーベル、妄想の中での自虐は悲しくならない?」
「言わないでくださいませ……」




