誇りを忘れるな
―――南側
「おい!しっかりしろ!医者は無理だから…え、衛生兵!!」
「敵本隊接近中!」
「後退よ!とっとと下がって!」
最初のあれはただの余興のつもり…?こっちが本隊よね?…本当に厄介な敵ね。再生能力を持ってるし、痛みを感じて無さそうだし。
「シャナリア様!」
「土壁!」
竜巻の消失と同時に土壁を作って敵の進行を一時的に防ぎ、取り敢えず要塞の付近まで撤退。
要塞側は最初のランダム転移で攻めてきた奴等によって陣を掻き乱されるわ、遠距離攻撃で兵は死ぬわで結構散々だった模様。
とは言え死傷者はまだ多くない。衛生兵も駆けまわって何とかなってる感じ。
「シャ…リ…ア…」
「!?」
「…シャナ……リア…」
「嘘でしょ…」
声がした方向に居たのは、嘗ての友の姿をした化け物。どうやってこっちに来たのか知らないけど、取り敢えず…彼の持っていた支配欲をパルパータが死界で見つけたんでしょうね。
なにせ彼は遥か昔に死んでいる。魂となってこの世に留まる程に意思が強い奴でも無いから、死界に居たのは確実。故に…死界でも何かしらの欲を持ってたのだろう。まぁどうせ支配欲。
「…なら私の両親も居そうね。どうでも良いけど」
ノーブルレッドは魔王に近い一族として知られていた。その所以はやはり吸血鬼の始祖であり、魔王と匹敵するから。
それ故に力に溺れ、弱者を支配しようとし、全員がレイ様の魔王就任に反抗し、そして殺された。私はただ一人国に残ってて、後にやって来たレイ様に忠誠を誓った。
「お前…も……パル…パータ様に…」
「…お前達がどんなに狂っても、どんなに力に溺れても、ノーブルレッドとしての誇りを忘れたことは無かった。…私はそれを見習い、どんなに罵られても、どんなに罵詈雑言を浴びせられても、ノーブルレッドとしての誇りだけは決して誰にも譲らなかった」
「忠誠を…誓え…。さすれば…力…が…」
「…例えどんなにクソな親で、どんなにクソな友達でも、その誇りだけは忘れなかった!!他者に頼らず、自らの力で頂点に立とうとする者こそがノーブルレッドだ!お前はただの欲望、二度と…二度とその姿で私の前に立つな!」
「ノー…ブ…ル…レッド…」
「忠誠を誓うのは良い、でも…全部自分でやるのが私達!他者に力を貰う?あり得ない!至高の存在、至高の種である為に努力するのが…私達ノーブルレッドでしょ!?」
剣で斬った瞬間、そいつが周囲の奴等を吸収して巨大な欲望の肉塊に。かと思えばそれが一気に圧縮し、吸血鬼の帝王、ヴァンパイアロードに。
「……死んで」
「ちゅうせ…いを…」
奴の手刀と私の剣がぶつかっては離れ、また接近してぶつかる。それを繰り返すうちにいつの間にか空中戦になっていた。
気付けば土壁も壊され、欲望の集団が要塞の方にどんどん迫っていく。私が上手く指揮で来てないせいで騎士団の連中が次々と…。
「!」
突然馬鹿みたいに攻撃が速くなり、私の左手の指が数本宙を舞った。
「こいつ…」
やっぱり強い。このレベルになるとやっぱ…かなり強い。ただの吸血鬼の帝王なら良いけど、シード曰く化け物共は欲望の度合いによって強さが変わるらしい。
混ぜれば欲望の種類が増えるし、その度合いも増すから強い個体になる。そして此奴はかなりの数を吸収したからただの吸血鬼の帝王じゃない。多分だけど吸収した個体は元ノーブルレッドの奴等だけだろうから尚更厄介。
「…ノーブルレッドという種を捨ててまで、貴方達は力を欲するの…?」
込み上げてくるのは悲しみ。あれだけ自分達の種を誇りに思っていた皆が、今じゃこれだもん。…悲しくない訳がない。
「―――シャナリア?!ぼさっとすんな!」
「し、シード!?」
突然現れたかと思えば、私を思いっきり突き飛ばす。その刹那、手刀がシードの腹部を思いっきり貫通した!
「…言っとくが俺は実際不死身なわけじゃないんだからな。不老不死なんざただの嘘だ」
「!?」
「んなことはいいから…さっさと殺れ!」
「くっ…!」
取り敢えず腕を切断し、シードを抱えて地面に降り立つ。すると彼は腕を引き抜き、大きく息を吐いた。
「…寿命で死ぬ事はない。ただ死ぬ事はある。加護を貰ったあの日から、俺はずっと死を受け入れようとしてる。多くの死を見てきたからな」
彼はそう言いながら手刀を片手で受け止め、握り潰してから思いっきり遥か上空へと投げ飛ばす!
「結果、加護を得た日に俺が取得したのは不老と理解不能レベルの再生能力だ。…運だが死を回避することもあるらしい」
「…今も死を受け入れようと?」
「誰しも何時か死ぬ。…恐れるなとは言わない。俺だって怖いもんは怖い。でも拒絶したって意味は無いんだ」
「何か貴方が言うと重みがあるわね」
「そうか?…まっ、この通り再生能力は異常なわけだ」
「マジで治ってる…」
「って訳で危なくなったら庇ってやるからとっとと殺れ。…ノーブルレッドの誇りを見せてやれよ」
「勿論…!」
素早く地面を蹴って跳び上がり、空中で態勢を整えた相手に強烈な蹴り!それから足を掴んで地面に投げ飛ばし、一気に降下!
「ブラッドスピア!」
それは奴の両腕けと腹部を貫通した状態で地面に突き刺さり、地面にしっかりと固定された。だが突然剣が出現して両腕を切断し、奴は起き上がってこちらを睨む。
そして素早く腕を再生させ、一気に距離を詰めてきた。だがあまりにも直線的だったので、攻撃を躱してその胸を手刀で貫く!
『『…誇りを…胸に』』
そんな言葉が聞こえたかと思えば、その体が光り輝く粒子となって消滅し、私の周りを回転し始めた。
『誇りを忘れるな』
『我等の種こそ最強なのだ』
『あの女、我等を侮辱しおって…』
「……私が、私達が必ず勝つ。だから私を信じて。…彼の事も、どうか…認めてあげて欲しい」
粒子は幾つかがシードの方に移動し、人型となってその姿を見せた。かと思えば、閃光の如き斬撃が放たれて周囲の欲望を消し飛ばす。
『認めない』
「それで良い。力あるものが頂点に立つ。故に反抗を認めよう。何度も俺に挑めば良い」
『夜に襲われてもか』
「望むところだ。…死して尚、俺に歯向かってみるか?」
『…フッ、断る。愛娘を頼むぞ。あの子はお前の助けになる』
「知ってるさ。…今度死界に行く、その時にゆっくり話そう」
『良かろう。…皆の者、時代は力が全てなのだ。今はこの王に任せよう。異論はあるか?』
『『ない』』
『…ではさらばだ、シャナリアよ。立派な…王になったな』
光の粒子は消滅し、僅かに残った彼等の魔力残滓が私の中に入って行く。それと同時に意識が朦朧とし始めた。
「これ…は…」
「認められたんだろ。…これで漸くお前は正真正銘、ノーブルレッドの王となったんだ」




