記憶の残滓
「―――デミちゃん!」
「む?何だ?」
「どうしてデミちゃんは魔王に?」
「簡単な話だ。我らの時代、魔族の領域は日に日に縮小されていた。そしてそのわずかな領土に残っていたのは力がある馬鹿な種族。魔人、龍、そして各種族の王系統。故に話し合い、そして一人の王を戦って決めたのだ」
「それがデミちゃんと…」
「うむ。そして戦えば自ずと絆も生まれる。結果として多くの王や強き種と関係を築け、領土の拡張にも手を貸してもらえた」
「凄いな…」
「ハハッ、そうか?まぁレイ程ではあるまい」
「そうかなぁ」
簡潔に話してくれたからこの反応で済んでるんだろうけど、戦いとか結構凄かったんだろうなぁ。
後は…一応テンペストにも聞いておこう!と言う事で思い立ったが吉日、即行動あるのみ。
素早く何時もの部屋に向かい、襖を開けて中に入る。するとテンペストはそこで本を読んでいた。
「…ん、お兄ちゃん私に用でしょ?」
「よ、よく分かったな。安定の未来予知か?」
「毎回言ってるけど、私はそんなスキルもって無い。ただの勘」
「それはそれで意味が分からないんだが…。まぁ良いや、テンペストは如何して魔王に?」
「妥当な疑問。…でも理由は簡単。先代魔王レイが発足したルールによって虐めは消えた。今はあるけど、私の時は無かった」
「うんうん」
「だけど上下関係は嫌でもある。そこで私の両親は先代から使える将軍で、上の立場に居た」
「おぉ」
「私自身生まれた時から才能に恵まれてて、直ぐに魔法が使えたの。でも…親が部下を虐めてるのを何度か見たことがあって、その時に私…なんて思ったと思う?」
「えっ…ひ、酷いとか?」
「ううん、あぁ、醜いなぁって。だから殺した。ベッドに魔法を付与して、一定以上の重さがベッドに掛かったら作動するようにして。…翌朝二人の寝室を見たらちゃんと槍が体を貫通しててね」
そう言いながら微笑むテンペスト。そして俺の表情を見てしっかりと頷いた。
「うん、やっぱシードはレイの娘なだけある」
「ん?」
「え?」
「違うの?」
「いや、違うけど?それは知ってるでしょ」
「おかしい。シードの記憶には確かにレイと過ごしてる記憶がある」
「何を言ってるんだ…?」
「見てみる?」
「うん」
すると一つの記憶が脳裏に浮かび上がり、そしてそこに俺の意識が吸い込まれていった。
―――――遥か昔
「………自ら禁術を生み出しちゃうなんて、私はやっぱ天才だね」
目の前に居るのは片腕、片足、更には幾つかの臓物を血で描かれた魔法陣の上に置いて笑っているレイちゃん。
でも彼女自身の体は再生が始まっていた。しかし貧血なのだろう、顔色が余りにも良くない。
ってか…三人称視点で視れるのか。あくまでも俺が見てれば、それを三人称の視点で視れる感じ?
『こ、これって…』
『…ん。人体錬成の中でも最上位、というか禁術に値する。自らの血肉と魔力の半分以上を代価に、自らの子を生み出す。血肉はまだしも、成功しようが失敗しようが魔力は戻らない』
「強い人としか私は結婚したくない。でも……一人は寂しいから仕方ない」
刹那、血で描かれた魔法陣が作動し、それら血肉が一点に集まっていく。やがてレイちゃんの魔力の6割方が吸い取られ、赤ちゃん姿の魔人が。
「……シード、そう名付けよう。私の子供だ」
「ど、同名なだけだよ、うん」
「次の記憶」
―――10年後
「母上!稽古を!」
「うん、良いよ~!あっ、この流派の名前は決めた?」
「はい!桜閃流です!どうですか?」
「良いね~!いい名を付けてくれて有難う!」
「えへへ…」
赤い髪だけど、明らかにそれ以外は一緒だった。行動も、懐き方も、ほぼ全部。そして…頭が凄く痛い…。
「違う、あり得ない…。俺は…」
「…シードは多分死んでる」
―――数十年後
「………楽しい生活は出来たし、もう良いかな。老いて死ぬなら、何かに負けて死ぬなら…友達の場所に行く方がいい」
『レイちゃん!!!』
『…無意味だよ、シード』
するとレイちゃんは何処かで見た事のある刀を取り出し、それで自らの心臓を一突き。
「…シードは…私の言う事を守るかな…。いや…私に似てるならきっと…」
ニコッとこっちの方を見て微笑み、そして一言言って来た。
「…未来でまた…会おう…」
刹那、青く燃え盛る神炎の竜巻が出現。レイちゃんはそれに一瞬で包まれ、次の瞬間には…炎事姿を消した。
『あり得ない…。まず記憶なら俺が…見てる筈だから…』
『隣の部屋がシードの部屋。…そして後ろを見て。穴が…開いてる』
一旦暗転したかと思えば、今度はシードの部屋らしき場所に。かなり豪華な部屋だが、彼の顔は暗い。というかもう…死にかけだった。
「……母上は…僕の…誇り」
自らの胸に短剣を刺し、口から血を流している。眼はどんどん虚になって行き、やがて…その体付近に神炎の竜巻が。
『レイは多分自分の体、そして彼の体に魔法を付与していた。死に際になったら神炎が発動するように』
すると突然意識が戻った。驚くべきなのはレイちゃんが俺を膝枕している事。
「…記憶でも見てたのかな?」
「え、えっと…」
「最初に出会った時、私は正直驚いてたの。シードは私を覚えてないって思ってたけど、会いに来てくれたから」
「………」
「まぁ私の事は知らなそうでビビった。名前が同じで、容姿もこんなに似てる子って居るんだ、そう思ったよ」
「確かに…」
「でもね、その体の中にある心は覚えてた。私の動き、私の教えた常識とかをね」
「忘れないよ」
「…何時か明かそうと思ってた。でも……何も知らないだろうから打ち明けても嫌われると思って…」
「そんな事無い!だ、だって俺は…す、好きだから!」
「おぉ、告白」
「…それは…どっちのシードとして?」
「俺は俺だよレイちゃん。…昔の俺も、今の俺も…変わらずシード。多分五歳の頃、俺の体は死んだ。ただ俺が宿った事で生を取り戻したんだと思う。だって記憶が曖昧なんだもん」
「…フフッ、そっか!じゃあ…シード」
「ん!」
「これからも宜しくね!恋人関係は…私に勝ってから!」
「勿論!」




