死を齎す暗殺者
――――夕食を食べ終え、俺は適当に夜の街を散策することにした。
どうやら国名すらなく、此処を首都にするとは決めたが首都の名前すらないそうだ。流石13の頃から変わらないフロル。
「まぁ名前なんざ何時か決めれば良いや。今は…うん、飲みたいな」
適当なバーに入り、一番度数が高い奴を頼んだ。マスターはデミちゃんみたいな人で、俺を見ても動じなかった。
「…美味いつまみはあるか?」
「龍の心臓を使った料理ならある。…高いぞ」
「ハハッ…問題無いさ」
「なら良い」
料理を待ちながら、隣に座った一人の女性に目を向ける。そしてクスッと微笑み、自らのグラスを持ち上げる。
「奇遇だな、ファーム」
「そうだね、シード。マスター、彼と同じのを」
「…どうぞ」
彼女は差し出されたグラスを手に取り、俺のと軽くぶつけ合った。それから一緒にゴクッと飲み、机に置く。
「お気に入りの店?」
「そうだね。疲れた時とかはよく此処に来る」
「…確かにそういう時に来るには良い店だ」
「そう言えば…邪教徒の話は聞いた?」
「俺が呼んだからな。プレアデス教皇は転移を使える奴でさ、精鋭部隊を集めてこっちに来てくれたんだ」
「心強いな!」
「そだろ?プレアデス自身も強いし、何より宗教ってのは種族関係無いからこそ、今この国で最も必要だ」
「人と魔族の共生のため?」
「あぁ。…フロルの夢は世界征服。だがその前に楽しく過ごせる国を作りたがっててな」
「宗教…喜ぶかな」
「ううん、多分微妙な反応をされる。…だからもう言ってある、人口の三割を上限にしろって」
「お~」
「心臓だ」
「おっ、ありがと、セグルスさん」
「………」
「えっ、セグルスって……伝説の人だよ?デミウルゴス様の傍で働き、魔王軍の総司令官だったっていう…」
「…過去の話だ。今の私はただのバーテンダー」
「知ってるよ。…まっ、気が向いたら手伝ってくれ」
「…………考えておこう」
―――その後はファームと適当に話を続け、2時くらいに店を出た。
「それじゃ」
「うん、またね~」
彼女と別れ、それから駆け足で邪神教の巨大な教会へと入って行く。
「悪いな、遅れた」
「我らは何時までも待ちます。崇高なるシード様は自らの思うがままに行動してください」
「ハハッ…なら次は五年程遅れてやろうか?」
「それはおやめください」
笑いながらそういうプレアデス。俺は取り敢えず彼女と握手をし、厳つい鎧を纏う兵士達を一瞥した。
「…もう数日すれば王国に居る奴から連絡が来ると思う。そしたら革命の始まりだ」
「完全に破壊しますか?」
「いや、完全じゃなくて良い。だがあそこには城郭都市を作る。それを念頭に置いて破壊しろ」
「御意に。…お屋敷の方は如何なさいますか?」
「そのままだ」
「では屋敷以外を大方破壊する、その方針で宜しいでしょうか」
「あぁ。…お前も行くのか?」
「いえ、私は兵を操るだけです。それが得意なので。……あぁ、もしかしたら直接出向くかもしれません」
「なるほどな。…そう言えば前に一人紹介してくれるって言ってなかったか?珍しい奴隷が云々って」
「おぉ、すっかり忘れておりました。申し訳ございません、この腕を捧げるので如何か…御許しを」
「いや、腕要らねぇしそんな事で謝るな。んで今居るのか?」
「居ります!」
するとアザの銅像が横にずれ、銅像があった場所に隠し扉が出現。そこを開け、下へと降りて行った。
するとそこは牢獄となっているが…ふむ、結構綺麗だな。衛生環境は決して悪いとは言えない。中に居る奴も普通に綺麗。
すると奥の重そうな扉が開き、その奥で鉄格子の中に閉じ込められている一人の女と目が合った。
それと同時に凄まじい殺気が押し寄せ、後からやって来た精鋭部隊のうち数名が一瞬で気絶。
いや、顔が見えないから単純にビビってこけただけかもしれん。……起きてこないし気絶か。
「買い手が多いと思うんだが…」
「はい。容姿も含めて多くの人が買いますが、数日後には購入者が死んでおります」
「何故?」
「今御覧頂いた通り、例え能力を制限していても殺気だけで気絶させることが可能です。…もし戦闘を許可した場合、隷属魔法があっても反抗出来てしまうのです」
「今は……なるほどな、牢全体が結界となって力を抑制してるのか」
「はい。我々では処理できず…」
「…名前は?あぁ、お前が答えろ、お前本人が」
「無い」
「無いの?!」
「実はまだ赤子の頃に我々が拾い、基本的な常識や言語を学ばせ、一通り戦い方を学ばせたのです。故に名前などは…」
「ふぅん…」
黒い長髪、天色の瞳、そして引き締まってる体躯。中々悪くない容姿だ。
「…今も俺が嫌いか」
「嫌い」
「い、今も…とは?」
「お前、教育の一環で暗殺をやらせてた事無い?」
「ありますが…」
「暗殺シーンを一回だけ見たことがあるんだよ。その時に一回だけ殺し合ってる。…お前と知り合う前だな」
「何と…!」
「俺の下に付け」
「………」
「メイドしろとか言うつもりはない。お前は暗殺者が向いてるからな」
「…良いよ。でも気に食わなかったら殺す」
「好きにしろ。…開けてやれ」
「…承知しました」
プレアデスが開けた瞬間、彼女はプレアデスがレッグホルスターに入れてた短剣を取ってこちらに接近。
仕方ないので黒い短剣を作り出し、首ギリギリの所でぶつけ合う。
「シード様!」
「気にするな」
「早めに隷属魔法を掛けた方が良いのでは?」
「要らん」
「…そうですか」
「しっかし…子供の時に比べて随分と伸びたし速くなったな」
「どうも」
彼女は溜息をつきながら短剣をプレアデスに返し、こちらに手を差し伸べてきた。怪しみながらもその手を握ると、彼女は小さく頷いて手を離す。
「…宜しく」
「あぁ。…お前は俺の直属の兵って事で…これを着てろ」
「……戦闘用の黒いロングコートですか。…内ポケットもあるし悪くないですね。普段使いも出来る」
「前を閉めるか開けるかは好きにしろ。皆基本開けてるけど自由だから」
「そうですか。まぁ開けますけど」
「……そう。んでこれやるよ」
「これは…悪くない短剣ですね。何処のですか」
「俺が作った。素材は龍の血、ノーライフキングの骨、竜骨、黒狼の爪、あと最近ノーブルレッドの血を強化素材に作った」
「強化もシードが?」
「あぁ。…んまっ、それやるから」
「どうも。あっ、レッグホルスターください。刀も」
「刀?」
「そうです」
「……まぁ今度な。今は無いし」
「どうも」




