第9話 「異世界を行く」―――①
「……だりぃーだりぃよー」
目と口と鼻と眉と、おおよそ顔のパーツ全てを“不満”という言葉の体現とさせて、露骨に嫌々を言うオム。
「なんでだよーなんでだよー!」
「俺も行きたかったよぉ!!!!」
オムがこう云うにも理由はある。時は巻き戻ること二日前の朝の事。
。。。
この村に家を建てた日の次の日。
「よしそれじゃあ、この世界での最初に決めた目標の、言語、住居、身分、を粗方揃えることが出来たから、今日からは本腰を入れてさらに色々と確認していくよ」
十人と一匹が仲良く食卓を囲み、ちょうど食後のお茶を飲み始めたころ。ラーはヴィル達にそう言った。
「あんまり人数を拡散させるのも良くはないんだけど、ここからは効率を求めて少し大胆に行動してみようと思う」
「具体的には、村関連、この世界での情報収集、帝国、聖国について、この世界での仮的地位の確立」
「この辺りを役割分担させて進めていこうと思う」
ラーも言っていたことではあるが、この世界での基礎がある程度つかめてきた今、僕達は最終目標に向けて着々と計画を進めなくてはならない。ので、ここからがいわゆる第二段階というわけだ。
「村関連は僕達が村長さんから貰ったお仕事をこなしたり、この村内での交流を増やしたり、が主になるかな」
「情報収集は完全な言語習得と同じ役割でもいいかもしれない、でもその分当然としてこの村では限界があるだろうから村を出て情報を集めなければならないだろうね」
「そして、最後に仮の地位をたてること、これは一番難しいことだと思う」
「僕達は前提条件としてこの世界には可能な分不干渉でいなければならない、これは分かるね?」
ラーからの質問に若干一名が「もう人と接触してる時点で不干渉じゃないんとちゃうか」なんて言っているが、そもそもの趣旨を理解できていないし、広義である可能な分を無視した考えであるため、誰も相手にはしない。
「そんな神経質になって不干渉であるべきだなんて事は言わないけれど、率先して行くのは賛成できない、けれど交渉や売買において“立場”というのは自ずと必要になってくる。だからこその“仮の地位”、間違っても【アウラム家】のような大々的に成ってはいけないと思う」
「外に出るメンバーは心の片隅にでも覚えておいてくれ」
ラーはあくまでも強制ではないとして、僕たちの自由意思を尊重するように言った。
「それと、村長さんにはここには数人だけが残って、後のメンバーは出稼ぎに都市に行くって言っておいた。そうだな……残るのは3人くらいがいいかな?」
「村に残る理由は僕たちには故郷、言い換えれば帰る場所がないからここに数人が残って“家”を守っておけば、心理的にも、僕たちのこの世界での地固めという面でも、役に立つ」
「儀式のアイテムがよく分からない以上、文献やこれに似た“本”の情報を集めないといけないね。これは僕が小まめに指令を出しつつ現場の判断で行動していこうかな」
「【世界に愛された髪】【涙の結晶】【思い出】この3つ……何度タッシーやみんなの能力で造ったり思考してみたりしたけれど、今まで上手くいっていない。ここまでくると、やはり普遍的な物ではなくて特殊な何かなんだろうね。さすがにもう2度と手に入らない物だとは考えたくないけれど」
ラーはどこか諦めたように言った。
「【世界に愛された髪】これだけは唯一物体の名前が分かっている物だ、村を出ていく組は“髪”についての情報を出来る限り集めてくれ」
「確認するように言うけれど、僕たちはまだまだこの世界について無知だ。儀式のアイテムについては皆無。手探りで少しづつやっていくしかないけれど、皆―――頑張ろうね」
ラーは親指を立てて宣言するかのように、そう締めくくった。
僕はラーの言葉を聞いて朗らかに頷いた。
(僕達はここならなんだってできる。僕達を縛る大人の目もないし、僕達を知る人もいないし。
たぶんラーは、決してゼノンテルアでは手に入れられない何かを、ここでみんなで経験したいんだと思う。
だから、あえて早い道の小ズルいやり方をせずに、出来るだけ正攻法に則って、それでいて出来るだけこの世界にも迷惑をかけたくないんだと思う。
ちょうどこの世界が楽しいと感じてきた頃だ、悪くない)
「よし、それじゃあみんなを班に分けて、今日からそれぞれが仕事を始めていこうか」
そうすると、ラーはくじを取り出し、みんなの前に差し出した。
。。。。
「ちっくしょー!!!!なんでこうなんねん!バカヤロー!!!!」
漢の咆哮をあげながら、涙を堪え、鍬をガッサガッサ振るうオム。
あの時の班分けは、
村班:オム、ラー、チェビ、ガウガウ
情報収集班:タッシ―、アイナール、スぺラ、シス
地位確立班:僕、アシミー、サブ
となった。
この世界への冒険を心待ちにしていたオムにとって、なんという藪からアッパースイング。
通話の向こうから聞こえる声は、なんとも悲しさに溢れている。
冒険への期待から眠れない夜を過ごしていたにもかかわらず、現実は何とも非常かな、オムに待っていたのは畑仕事。
流石にここまでくると、煽る気にもならない。むしろかわいそうだと同情したくなる。
(―――まぁだからといって仕事を変わってやることはないけど)
拠点を手に入れたのも束の間、僕達、【地位確立班】は現在王国の都市へと向かっている。タッシー達【情報収集班】は帝国に向かった。
フィーネスの村の村長さんはすごく優しい人物で、当分は簡単な畑仕事さえ手伝ってくれればいいと言ってくださった。だからオム達【村関連班】の仕事は
決まった区画の仕事を終わらしてさえくれれば、後の時間は何をしていてもいいし、生活に関わるお金も多少は払ってあげられる、とも言ってくださった。
この優しい村長のおかげで、僕達は安心してオムたちに仕事を任せ外に出られる。
村側には、故郷への忘れ物を取りに帰ったことにして伝えて出てきている。
その間にも村班は、当初の予定のこの世界の常識と田舎情報を集め、村の家という居住地を確保し続ける。
重要ではあるが、冒険を心待ちにしていたオムにとってはかなり不服な役職だろう。
でも、村長に教えてもらったことはすごく役に立つことばかりだったし、やはり、村で生活することは僕達にとってかなり大事なことだと思う。
何より、帰る家があるというのは心持的にも良いものがある。
村で燻り続けるオムのためにも、まずは王国都市に行かなくては。
そこで覆面○○みたいな感じで地位を組み立てていこう。覆面の方が後々、役職を交代するときに外聞的な問題が発生しにくいし、何かと好都合だろう。
まぁでも、交代したがっているオムには悪いが、僕達で全部を終わらすつもりで頑張るとしよう。オムの分なんか残してやらない。
―――精々畑仕事を頑張ってるんだな! はっ!!




