ギルド加入と、最初の仕事
「で、嬢ちゃん。ギルドに入る気はあるか?」
ハルドさんの問いに、私はすぐ頷いた。
「あります」
「理由は?」
「身分が必要です。お金も必要です。あと、情報も」
ハルドさんの片眉が上がる。
「整理が早いな」
「そうしないと不安になるので」
本音だった。
帰る方法はまだ何もわからない。
それならまず、この世界で生きる基盤を作るしかない。
ハルドさんは腕を組んだ。
「正直に言えば、今の実力で新人登録は妙だ。だが、身元不明だからと門前払いしても町の外で暴れられたら困る」
「暴れません」
「わかってる。たとえが悪かった」
リディさんが口を挟む。
「仮登録ならどうでしょう。初級依頼のみ、町外活動は制限つき。推薦人は門番のドルクさんと、こちらで監督をつければ」
「監督?」
「先輩冒険者の同行です」
それは合理的だった。
私も土地勘がないまま一人で外に出るのは危険だと思う。
すると後ろから、気だるそうな声がした。
「なら、俺が見るよ」
振り返ると、壁際で椅子に座っていた青年が片手を上げていた。
年は二十歳前後。くせのある黒髪に、眠たげな目。軽装の革鎧と短剣二本。
やる気があるのかないのか、よくわからない。
「ルクト」とハルドさんが言う。
「仕事選べ」
「選んでる。面白そうだし」
失礼じゃないかな、それ。
ルクトは立ち上がって私を見た。
「森からパジャマで来て、木板ごと訓練人形斬った子だろ?」
「そうなります」
「うん、面白い」
やっぱり失礼かもしれない。
けれど、嫌な感じはしなかった。
見下しているわけじゃなく、本当に興味を持っている顔だったからだ。
こうして私は、仮登録の形でギルドへ加入することになった。
薄い金属の札に、簡単な刻印が入る。
名前は《スズカ》。
身分証を兼ねる仮のギルドタグらしい。
それを手にした時、少しだけ気持ちが変わった。
ここにはまだ何もない。
でも、ゼロではなくなった。
「最初の仕事は簡単なものにする」とリディさんが言う。
「薬草採取、荷運び、畑まわりの小動物追い払い。どれがいいですか?」
「全部できますか?」
「全部?」
「お金が必要なので」
リディさんが、ふっと笑った。
「できますよ。ただし順番に」
最初の依頼は薬草採取だった。
町の外れの丘に生える《青縁草》を十束。
本来なら、初心者でもできる安全な依頼らしい。
同行するルクトは道中、あまり喋らなかった。
無愛想というより、必要以上に話さないタイプだろう。
でも、聞けば答えてくれる。
「この世界って、魔法は誰でも使えるんですか?」
「使えるやつと使えないやつがいる。才能と訓練次第」
「剣士と魔法使いで完全に分かれる?」
「そこまででもない。補助魔法くらいなら使う前衛もいる」
「へえ」
「お前は?」
「使えません。たぶん」
「たぶん多いな」
「今日来たばかりなので」
「それもそうか」
丘での採取は、拍子抜けするほど平和だった。
風は気持ちいいし、草の見分け方もルクトが教えてくれる。
「葉の縁が青いのが青縁草。似てるやつは触るとかぶれる」
「危ないですね」
「初心者向け依頼って言っても、失敗するとそうなる」
私は慎重に採った。
試合前の情報整理に似ている。
違いを見て、手順を守る。
採取が終わるころには、少しだけ打ち解けていた。
「お前、変わってるな」とルクトが言う。
「よく言われます」
「見た目じゃなくて中身な」
「それは初めて言われたかも」
「普通、異世界みたいな反応しないだろ。町に来たばかりのやつって、もっと怯えるか、逆に強がるかだぞ」
私は少し考えた。
「怖くないわけじゃないです。でも、怖いからって止まっても仕方ないので」
ルクトは少しだけ目を細めた。
「そういうとこ、強いな」
「家族が、強い人ばっかりだったからかもしれません」
言ってから、胸が少しだけ痛んだ。
家族。
その言葉がまだ、うまく飲み込めない。
ルクトはそれ以上は聞いてこなかった。
そういう距離感はありがたかった。
薬草採取、荷運び、畑の小動物追い払い。
その三つを一日でこなした結果、私は最初の報酬を手にした。
銅貨と、小さな食事券。ほんのわずかだけど、自分で得たお金だ。
「初日で三件は頑張った方ですよ」
ギルドで報酬を渡しながら、リディさんが言った。
「足りませんけどね」
「何に対して?」
「宿代と、食費と、たぶん今後いろいろ」
ハルドさんが笑う。
「現実的でいい。嫌いじゃない」
この町の人たちは、思ったよりずっとあたたかい。
もちろん油断はできない。
でも少なくとも、今の私は追い払われずにここにいられている。
それだけで、十分ありがたかった。




