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異常な火力は、町でも異常だった

ベルナさんに水浴びをさせてもらい

服を手に入れた次に必要なのは、もちろん金だった。


ベルナさんの店を出たあと、私はミオに案内されて広場へ向かった。

そこには露店が並び、荷車が行き交い、人の声が飛び交っていた。

町は想像より活気がある。


パンの匂い。

焼いた肉の匂い。

鍛冶場の金属音。

行商人の呼び声。


異世界、ってもっとこう、ふわっとしたものを想像していたけれど、実際はとても生活感がある。

当たり前だ。ここで暮らしている人たちにとっては、これが日常なんだから。


「まずはギルドで魔石を換金してもらえるか聞こう」とミオが言った。


「登録前でも?」


「素材の買い取り窓口は別だから平気なはず」


ギルド会館は、町の中央近くにある石造りの二階建てだった。

表には剣と盾を組み合わせた看板が下がっていて、いかにもそれっぽい。


中に入ると、空気が一変した。

酒場ほど騒がしくはないが、静かでもない。

革鎧の男、ローブ姿の女、大きな槍を背負った青年。

いろいろな人がいて、地図を見たり、依頼書の前で話し込んだりしている。


私は少しだけ背筋を伸ばした。

道場に初めて他流試合で入った時に似ている。

知らない流儀の中へ入っていく緊張感だ。


受付には三人いて、そのうち真ん中の女性がこちらを見た。

淡い茶色の髪をきっちりまとめた、仕事のできそうな人だ。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」


「買い取りと、できれば登録についても聞きたいです」


「承りました。魔石か素材をお持ちですか?」


私は布に包んでいた赤い石を出した。

受付の女性――名札には《リディ》とあった――はそれを手に取った瞬間、表情を少しだけ変えた。


「……これを、どちらで?」


「森の外縁です」


「ご本人が討伐を?」


「はい」


「お一人で?」


「はい」


横でミオが、あっ、という顔をした。

私は何かまずいことを言ったかもしれないと思った。


リディさんは微笑みを崩さないまま、奥にいる大柄な男性を手で呼んだ。


「マスター、少しいいですか」


ギルドマスターという単語が頭に浮かぶ。

出てきたのは、灰色の髭を短く整えた筋骨隆々の男性だった。年は五十前後だろうか。


彼は魔石を見て、私を見て、もう一度魔石を見た。


「嬢ちゃん、名前は?」


「新井涼花です。涼花で」


「俺はハルド。ここのまとめ役だ。聞くが、本当に一人でやったのか」


「はい」


「武器は?」


私は腰の剣に触れた。


「これです」


「抜いてみろ。いや、待て。外だ」


そのまま裏庭に連れて行かれた。

ミオは完全に野次馬モードだった。リディさんも仕事顔のまま付いてきた。


裏庭には、訓練用らしい木人と、厚い木板が立てかけてあった。

ハルドさんがそのうち一枚を指差す。


「力試しだ。軽く振れ。壊すなよ」


私は頷いた。

でも、ここで困る。


軽く振るの基準が、この剣だとわからない。


剣道なら加減できる。

でもこの剣は、ちょっとした振りでも火力が変だ。


「ええと……本当に軽く、ですよね?」


「そう言ってる」


私は一歩下がり、息を整えた。

大丈夫。加減する。斬るんじゃない、当てるだけ。

剣先の軌道を抑えて、手首を固めて、腰も使いすぎない。


そして、板に向かって横薙ぎに一閃。


次の瞬間。


ズバンッ!!


という、軽くでは済まない音がした。


木板は真ん中から綺麗に両断され、その後ろにあった木人の首が飛び、さらに奥の土壁に浅い溝が走った。


沈黙。


ミオの口が開いたまま止まっている。

リディさんの微笑みも消えていた。

ハルドさんだけが、額を押さえて空を見上げた。


「……軽くって言ったよな?」


「私もそのつもりでした」


「そのつもりでこれか」


「はい……」


「やべえな」


その一言に、だいたい全部が詰まっていた。

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