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町の人は、思ったより親切だった

詰所での聞き取りは、予想より穏やかに終わった。


もちろん、私の説明はほとんど説明になっていなかったと思う。

「気づいたら森にいた」「記憶はあるけど場所がわからない」「剣は最初から持っていた」。

怪しさの満漢全席みたいな内容だった。


それでもドルクさんは、すぐに牢屋へ放り込むようなことはしなかった。


理由は二つ。

一つは、私が未成年に見えたこと。

もう一つは、門の外で倒した魔物の赤い石――魔石というらしい――を持っていたことだった。


「夜の森で、一人でこれを?」


詰所の机の上に置かれた赤い石を見て、ミオが目を丸くする。


「偶然です」


「偶然で済ませるの雑すぎない?」


「でも、本当にそうだから」


ドルクさんはしばらく黙っていたけれど、やがて椅子にもたれて言った。


「森の外縁に出る《角狼》なら、三人いれば対処できる。初心者が一人で倒せる相手じゃない」


「角狼……」


あれ、犬じゃなかったんだ。


「君、剣の訓練は受けているな?」


「はい。少しだけ」


「その少しが信用ならん」


正論だった。


結局私は、町の中に入ることを許された。

ただし条件つきで。


問題を起こさないこと

今日中に身の振り方を決めること

できればギルドで登録して身元保証に近いものを作ること

「ギルド?」


と聞くと、ミオが身を乗り出した。


「冒険者ギルド! 依頼受けたり、魔石換金したり、身分証代わりになったりするやつ!」


「へえ」


「へえって、ほんと何も知らないんだな……」


知らないものは知らない。


でも、それはありがたかった。

お金もない、身分もない私にとって、ギルドというのはだいぶ都合がいい。


「その前に」とドルクさんが言った。


「その格好を何とかしろ。町の治安以前に、風紀と衛生が気になる」


「すみません……」


ミオが何か思いついた顔をした。


「それなら、ベルナおばさんの古着屋なら安くしてくれるかも」


「朝っぱらから押しかけるのか?」


「事情を話せばたぶん平気です。困ってる人には甘いし」


こうして私は、町に入って最初の目的を決めた。


衣類の調達。


なんだか異世界ファンタジーっぽくないスタートだけど、たぶん生きるってそういうことだ。


ベルナおばさんの店は、表通りから少し外れた路地にあった。

看板は木製で、《月うさぎ衣料》と書いてある。うさぎ、多いなこの世界。


店を開けたのは、恰幅のいい五十代くらいの女性だった。

腕まくりした姿が似合う、いかにも働き者という感じの人だ。


「朝から何の騒ぎかと思ったら……あらまあ」


第一声がそれだった。


だよね。私もそう思う。


ミオが事情をざっと説明すると、ベルナさんは私を上から下まで見て、大きく頷いた。


「なるほどね。事情はともかく、まず着替えだ。そんな格好じゃ町を歩けやしない」


「すみません、でもお金が……」


「ツケは嫌いだけど、働く気があるなら話は別だよ」


私は顔を上げた。


「働きます」


「即答かい」


「必要なので」


ベルナさんはにやっと笑った。


「気に入った。いいよ、うちの倉庫整理を半日手伝いな。その分で一式見繕ってやる」


「ありがとうございます」


「ただし、変な趣味の服は着せないから安心しな」


「そこを心配する文化があるんですか、この世界」


「あるねえ」


怖いことを言わないでほしい。


倉庫整理は思ったより大変だった。

布の束は重いし、棚は高いし、分類は細かい。

でも私は体力には自信があるし、整理整頓は嫌いじゃない。


「動きに無駄がないね、あんた」


ベルナさんが感心したように言う。


「家でよく手伝ってたので」


「武器は持てても、荷物を持てない子は多いんだよ。最近の冒険者は特に」


そう言いながら、彼女は私に濃紺のチュニックと丈夫そうなズボン、革のブーツ、それから薄手の外套まで選んでくれた。


鏡の前で着替えてみる。

胸元もきつくなく、動きやすい。袖も邪魔にならない。何より、まともだ。


「……すごい」


「何がだい?」


「服って大事ですね」


ベルナさんとミオが同時に吹き出した。


「そりゃそうさ!」


たぶん私は、この異世界に来て初めて少しだけ人心地がついたんだと思う。

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