えんちゃん、朝から怒られる
「何で開始装備が調整前の試作支援剣なんだ!!」
朝一番。
企画管理フロアに、上司の怒声が響いた。
レッサーパンダ風の上司――営業企画兼監査主任、赤坂部長は、机を叩かんばかりの勢いでモニターを指さしていた。
そこに映っているのは、町の詰所で事情説明をしている涼花の姿である。
えんちゃんは椅子の上で縮こまりながら、小さな声で言った。
「ええと……持たせる剣を仮登録して、そのまま本登録を……」
「したのか!」
「してしまいました……」
「してしまいましたで済むか!」
会議室の隅では、みなちゃんが紙パックのお茶を飲みながら他人事の顔をしていた。
「いやあ、やっぱりだったね」
「みなちゃん、今それ言う!?」
「だって言ったじゃん。衣装確認した? 武器確認した? って」
赤坂部長はこめかみを押さえた。
「えん君」
「はい……」
「君は毎回、詰めが甘い」
「はい……」
「発想は悪くない」
「ありがとうございます……?」
「褒めてない!」
部長の尻尾が怒りで膨らんだ。
えんちゃんは心の中で終わったと思った。
試作支援剣――正式名称《導因補助式第七試製兵装》。
それは本来、世界線に適応できるかどうかを検証するための開発中装備で、主人公支援用としてもまだ承認されていない代物だった。
特徴は単純。
相手の危険度と使用者の生存率を参照して、必要最小限を大幅に超えた威力が出る。
つまり、めちゃくちゃ危ない。
「しかも衣装がパジャマ! 導入イベントとして最悪だ! 何だあの生活感の強い勇者は!」
「勇者ではない設定です!」
「そこは今どうでもいい!」
みなちゃんが横から口を挟む。
「でも、視聴率……じゃなかった、注目率は高いと思うよ。森からパジャマの剣士が来たって、町の人みんな気になるし」
「みな君、君は火に油を注がない」
「はーい」
言いながら、まったく反省していない声だった。
赤坂部長は長い長いため息をついたあと、えんちゃんを指差した。
「今日中に三つやれ」
「三つ……」
「一つ。支援剣の出力制御を再設定しろ。
二つ。主人公の初期生活導線を整えろ。
三つ。ギルド側に自然な受け皿を用意しろ」
「はい」
「終わるまで帰るな」
「はい……」
「残業申請は通しておく」
「そこは優しいんですね……」
「当たり前だ! 勤務時間内に終わる規模じゃないからだ!」
えんちゃんは机に突っ伏したくなった。
けれど、モニターの向こうでは涼花が真面目な顔で詰所の椅子に座っている。
何だかんだ言っても、自分が連れてきたのだ。
だったら、せめて最低限のレールは敷かなければいけない。
「……やります」
「やれ」
「あと、部長」
「何だ」
「できれば今後、視聴率って言い方は控えていただけると」
「上層部がそう言うんだから仕方ないだろう!」
やっぱりこの会社、少しおかしい。




