表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/60

企画会議は、だいたい喫煙所から始まる

「――で? 結局、お前また見切り発車したの?」


会社の非常階段脇、半分だけ外気にさらされた喫煙スペースで、みなちゃんは呆れた顔をした。


うさぎ風の外見で、耳だけ見ればメルヘンの住人。

けれど中身は完全に実務派だ。

この女が地球の管理者だという事実は、たぶん誰に話しても信じてもらえない。


対するえんちゃんは、紙コップのコーヒーを両手で持ちながら、肩をすくめた。


「だって部長がさあ。“次の世界、もっとこう、視聴率取れる感じで”って言うんだよ? 星系設計課に何求めてんのって話じゃない?」


「上司はいつの時代も無茶振りするものだよ」


「それ、名言っぽく言ってるけど、ただの諦めだよね?」


「諦観とも言う」


みなちゃんは煙草ではなく、なぜかにんじんスティックをくわえている。

健康志向なのか、単にキャラ作りなのかは不明だ。


えんちゃんはため息をついた。

彼は“星々を作る仕事”をしている。正式には、文明発生環境設計部・可変世界企画課所属。

要するに、新しい世界を作る部署の会社員だ。


世界を作る、と言うと神様じみているが、実態は割と泥臭い。


大気の組成を調整し、魔力粒子の循環率を決め、生態系の相互侵食をシミュレーションし、知的生命体の発展余地を上申する。

ロマンよりエクセル、奇跡より会議資料の世界である。


「で、相談って何?」とみなちゃん。


「面白い世界って何だと思う?」


「雑だなあ」


「真面目に悩んでるんだって。前の案件、平和すぎて波がないって差し戻されたんだよ? せっかく天候も農耕も安定させたのに」


「そりゃ番組としては地味だよ」


「番組じゃないんだけど!?」


「でも部長、どうせ中継するんでしょ。上から観て楽しいかで判断されるなら、ある程度はドラマが必要じゃない?」


えんちゃんは無言になった。

そこを突かれると弱い。


この会社には悪趣味な制度がある。

企画した世界の進行は、上層部に視察映像として中継されるのだ。

誰が考えたのか知らないが、絶対に暇な役員がいる。


みなちゃんは少し考えてから、軽く指を立てた。


「じゃあさ、剣とか魔法がある世界にしなよ」


「うん」


「魔物とか伝説の武器とか置いて」


「うんうん」


「魔王にはこっちからある程度、誘導かけて」


「それ、コンプラ大丈夫?」


「大丈夫なラインでやるんだよ。露骨にやるから怒られるの」


「妙に実践的だなあ……」


「それで、主人公ポジにかわいい子を入れて、強敵とか難所とか仲間とかを用意して、成長のドラマを見せるの。たまに現場介入して、ボスを弱体化させたり、イベントを起こしたり」


「えっ、普通に面白そう」


「でしょ? 世界は放っておくと、わりと地味にまとまるからね。ちゃんと物語を走らせないと」


えんちゃんの目が、ぱっと輝いた。


「それだ!」


「単純だなあ」


「でも主人公、どこから連れてくる?」


みなちゃんは、当然のように言った。


「地球から適性ある子を拾えば?」


「言い方」


「誤解を招く表現だった。適切なタイミングで招待すれば?」


「余計だめそう」


けれど、えんちゃんの頭の中では、すでに設計図が走り始めていた。

剣と魔法。魔物。伝説の武器。魔王。中継映えする試練。

そして、困難を突破していく主人公。


「勝負勘が強くて、伸びしろがあって、でも根は善人……そういう子がいいな」


「なら検索条件絞ればすぐでしょ」


「いや、でも責任重大だし」


「お前さっき、もう見切り発車したって言ってなかった?」


「……」


「まさか」


「……仮押さえだけ」


「何を!?」


えんちゃんは視線を逸らした。


みなちゃんは両耳をぴんと立てたあと、額を押さえて長いため息をついた。


「やったな?」


「やりました……」


「誰を?」


「新井涼花、十六歳。剣道全国大会前日。高熱で緊急搬送待ち」


「タイミング最悪じゃん!」


「でも、生存ラインぎりぎりで、因果の分岐が綺麗だったから……」


「設計屋の言い訳!」


「だって、今しかなかったんだもん!」


みなちゃんはしばらく無言だった。

それから、心底面倒くさそうに言った。


「……ちゃんと剣は持たせた?」


「持たせた」


「衣装は?」


「え?」


「え? じゃないよ。転移直後の見た目は?」


えんちゃんの沈黙が、すべてを物語っていた。


「……やったな?」


「……パジャマです」


「最悪!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ