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違和感は、魔王側にもあった
同じ頃。
町から遠く離れた、黒い岩山の中腹。
魔王軍の一角を預かる将――《黒爪》のゼグドは、報告書を睨みつけていた。
「北辺の魔物群が、また命令系統を無視しただと?」
部下の魔族が膝をつく。
「はっ。巡回個体が突然、予定外の方面へ流れました。命令信号に遅延も見られます」
「遅延?」
「まるで……途中で別の規則に触れたような」
ゼグドは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
この世界の魔物は、完全な野生ではない。
魔王軍の支配領域に近いものほど、薄く指令の網に繋がっている。
それが突然乱れるというのは、おかしい。
「外敵か?」
「不明です。ですが、各地で指示が抜ける現象が報告されています」
「そんな馬鹿なことがあるか」
あるはずがない。
少なくとも、本来なら。
ゼグドは魔導盤を開いた。
そこに表示される世界地図の一部が、ほんの一瞬だけぶれた。
まるで、紙の下に別の紙が重なっているみたいに。
「……何だ、今のは」
部下には見えていないらしい。
ゼグドは黙って盤を閉じた。
魔王に報告するべきか。
それとも、自分の見間違いとして処理するべきか。
その判断をしかねる程度には、違和感は小さく、しかし不気味だった。




