残業中のえんちゃんは、だいたい顔が死んでいる
その頃。
えんちゃんはオフィスの片隅で、完全に顔が死んでいた。
時刻はすでに深夜帯。
フロアの照明は半分落ち、残っているのは同じように帰れなくなった者たちだけだ。
「何でギルド加入一つで補助線こんな要るの……」
ぶつぶつ言いながら、えんちゃんは書類――ではなく世界構造パネルを操作する。
主人公の初期生活安定化。
受け入れ先の人間関係調整。
不自然にならない範囲でのイベント誘導。
異常火力の再計算。
仕事量が多すぎる。
みなちゃんは隣の席で、なぜか元気だった。
「ほら、飲みなよ」
差し出されたのは栄養ドリンクだった。
ラベルには《徹夜の友・極》と書いてある。嫌な予感しかしない。
「ありがとう……」
「大丈夫? 目の下、闇属性みたいになってるよ」
「大丈夫じゃない。でも涼花ちゃん、順調そうでちょっと安心した」
モニターには、宿の部屋で剣を見つめている涼花の姿が映っていた。
一人きりになった今、さすがに疲れもあるのだろう。
それでも彼女の目は、まだ折れていない。
「強い子だね」とみなちゃんが言う。
「うん」
「だからこそ、変に盛ったらだめだったんだよ。素で十分面白いんだから」
えんちゃんはしばらく黙った。
それから、小さく答えた。
「……そうかも」
赤坂部長が後ろを通りがかり、二人の画面を見て鼻を鳴らす。
「主人公が良いのは認める」
「部長」
「だが、運営は雑だ」
「はい……」
「明日までに剣の説明づけをまとめろ。
ギルド側には特殊適性持ちくらいの認識で流せ。
正体が早期に割れると話が崩れる」
「わかりました」
部長は去り際に言った。
「それと、えん君」
「はい」
「仮眠室は空いている。二時間だけ使え」
えんちゃんは思わず顔を上げた。
「部長……」
「労災は面倒だからな」
やっぱり優しいのか優しくないのか、よくわからない。
みなちゃんが笑う。
「よかったね」
「うん……でも終わらない……」
「知ってる」
世界を作るのは大変だ。
でも、始まってしまった以上、止めるわけにはいかない。
えんちゃんは再びキーボードを叩き始めた。
彼の残業は、まだしばらく続くらしい。




