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6.お宝?

 ハナは今、キルコ村の村長の家にいる。

 ヘムルの町の冒険者ギルドで依頼を受けて、予定通りキルコ村にやって来たわけだ。

 昼過ぎにヘムルを出発するキルコ村の荷馬車に同乗して、そろそろ夕方になろうとしている。

 そして、これから村長が依頼の説明をしてくれるのだ。


(優しそうなおじさんで、なんかホッとする)


「ヘムルの冒険者ギルドで説明は受けたと思いますが、依頼はこの村の南の森にある洞窟の調査になります。昔、ゴブリンが住みついて繁殖してしまって大変だったらしいのですが、今は入口に扉を付けて施錠して管理しているから、中に魔物はいないはずです」


 危険な魔物はいないと分かっているからEランクでも受けられるし、そして報酬も少ないというわけだ。


(まあ、わたしなら赤字にならないし、危険がないのは良いことだね)


 昨日、ギルド職員の女性に声をかけられた時は嫌な予感がしたハナだが、気のせいで良かったと思っている。

 例の魔物の捜索は、ヘムルの町の西の川沿いの街道を南下した地域が対象だが、ここはヘムルから東へ街道を進み分岐を南東方向へ進んだ場所なので、かなり離れている。

 しかも、ここは魔素が非常に薄い地域なので、強力な魔物が自ら近づくことはないような場所だ。


「この村の周辺は魔素がとても薄いので、洞窟内に魔物がいたとしてもスライムとかネズミぐらいだろうから、討伐はしなくていいですよ。洞窟内には餌になる物もないはずですし、放置しても増えることはないでしょうから」

「わかりました」


 スライムとかネズミ系の魔物はEランクで、積極的に人間を攻撃してくることはなく、むしろ人間を見たら逃げ出す連中だ。


「それと、これを持って行ってください」


村長が紙の束をハナに渡した。


「明日行く洞窟の地図です。村に戻ってきた時に返却してくれればいいので」

「ありがとうございます」


 すでに何回も調査されている洞窟だから地図が作成されているのだ。

 ハナが渡された紙の束をめくってみると、地図は四枚あった。

 それぞれ、『一階』『地下一階』『地下二階』『地下三階』と書かれている。


「この洞窟は地下三階まであって、地下三階には広い空間があるんですが、その奥には地上まで通じている大きな縦穴があります。そこからスライムとかの魔物が入ってきている可能性もあります。危険な魔物はいないと思いますが、万が一の場合を考えて村人が調査をするのではなく、冒険者に調査を依頼する決まりになっているんですよ」

「なるほど」

「地上の穴の周りにはロープを張ってあって村の住民には近づかないように言ってあるんですが、魔物にはロープなど関係ないですからねえ」

「確かに、そうですね」


(なんとなく洞窟の全貌が分かってきた。まあ、万が一の場合でもルーちゃんがいるから大丈夫でしょ)


「地図もあるから調査自体は朝出発して、お昼前後には終わると思います。それと、この村には宿屋はないので、滞在中はこの家の隣の作業小屋を使ってください。寝泊まりできるようになっていますので。あと、食事はそちらの小屋へ届けさせます」

「はい。ありがとうございます」


(滞在中にお金がかからないのは嬉しい。普通なら、交通費や宿代や食費は自腹だもんね)


「出発は、明日の朝食後でよろしいですか? 徒歩で洞窟まで行きますが、わたしがご案内しますので」

「わかりました。よろしくお願いします」


 説明を聞き終えて、案内された隣の作業小屋へ移動してきた。

 小屋の中には小さな机と椅子、それに作業台と簡易ベッドがある。

 この日は、村長宅の使用人によって届けられた夕食を済ませた後、すぐに寝た。


 翌朝、朝食後すぐに村長と洞窟へ出発した。

 村を出て川沿いに森を進むと、水面に朝日が反射してキラキラと輝いている。

 朝露に濡れた周囲の草やユリに似た白い花は、透き通るような美しさだ。

 比較的安全な森だということもあり、ハナは清々しい朝を楽しんで進んだ。


 村を出て30分ほどで目的地の洞窟の前に着いた。

 森の中にある、ちょっとした崖に頑丈そうな扉が付いている。

 村長が鍵を開ける間に、ハナはランタンを取り出して火を点けておく。


 村長がゆっくりと扉を開くと、底気味悪い闇が口を開けている。

 一人で入るのだと思うと、ハナは少し緊張するのだった。


「鍵を渡しますから、調査が終わったら鍵を掛けて村に戻ってください。帰り道は分かりますよね?」

「はい。大丈夫です」


 ハナが鍵を受け取ってポッケにしまうと、村長が崖の上の方を指差した。


「この先に、昨日お話しした大きな縦穴があるので、近づかないように気を付けてくださいね」

「分かりました。では、行ってきます」

「はい。ではお願いします」


 ハナは中に入ると、内側から扉を閉めた。

 今度は、油を付けたたいまつを取り出して、ランタンの火でたいまつに火を点ける。

 ソロなのでランタンだけだと、ランタンが戦闘中に壊れたり油が切れたりしたら、暗闇で致命的に不利な状況になってしまうので、今回はたいまつも併用する。


 左手にたいまつ、右手にスパイク付きのルーカス、腰にランタン、剣は手に持たず左の腰に、というスタイルで調査を開始する。


(……やっぱり洞窟内で一人ぼっちは怖いし寂しいなあ。まあ、洞窟内じゃなくてもボッチだけどね。でも、ルーちゃんを見ると何だか一人じゃない気がするし、頼もしすぎる相棒だもんね)


 時々たいまつを置いて地図を確認しながら進むが、たまにスライムを見るぐらいで特に問題はなさそうだ。

 問題になるほどのゴブリンがいたというだけあって、内部は意外と広くて通路も複雑だ。

 でも、通路のあちこちに矢印があって、矢印のとおりに進めば出口にたどり着けるようになっている。

 村人か冒険者が書いた矢印だろう。

 地図があるから迷ったりはしないが、背後を注意しながら恐る恐る進んでいるので意外と時間がかかる。

 天井はけっこう低くなっていて、頭をぶつけるほどではないが、長い剣を振るのは難しいだろう。


(こんな場所で前後から敵に挟まれたりするのは、想像もしたくないわね。やっぱり、早くボッチを卒業しよう……)


 ハナは心の中でボッチ卒業を決意したが、いまのところ卒業の見込みはない。

 結局、魔物との戦闘は発生せず、地下二階までの調査は問題なく終わった。


(何時間ぐらい経ったかな? 時刻は分からないけど、腹時計によると昼ぐらいな気がする)


つまり、ちょっとお腹が空いてきたということだ。

 あと少しで終わりなので、意識を調査に戻して地下三階へ進む。


 この洞窟は地下三階まであるが、人間の建造物のように、階段などできっちりと階が分かれているわけではない。

 洞窟内の起伏を便宜上の観点から、階層分けをして記録したにすぎないのだ。

 今は地下二階から地下三階へ進んでいるわけだが、単に下りの通路を進んでいるだけだ。


 通路を下っていくと、予定通り広い場所に出た。


「ここが地下三階か……」


 かなり広い空間で、ここは天井も高い。

 ゴブリンが住んでいた時は物があったのかもしれないが、今は何もない空間だ。

 たいまつの光だと奥の方はよく見えないが、一番奥の方は少し明るくなっている。

 たぶん、あれが地上へ通じている縦穴だろう。


 魔物はいないと思われるが奥の方は見えないので、ハナは慎重に静かに中央に向かって進んでいく。


 本来は、いきなり中央に向かって進むべきではない。

 もし魔物がいたら四方から襲われることになるので、壁沿いを進むのがセオリーだろう。

 でも、まだ一度も魔物との戦闘は発生していないので、ここにだけ危険な魔物がいるとは考えられない。

 だから、ハナはあえて中央に向かって進んでいる。


 周囲を見まわしながら、もうすぐ中央かと思われる場所まで来て、足を止めた。


(何か、ある……。お宝? いや、ここにそんな物があるはずはない)


 左前方の奥の方に、何か白っぽい物がある。

 音を立てないように慎重に近づくと、壁際に信じられない物があった。


 横たわる、一人の少女だ。





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