3.キーワード
今日は防具屋に向かっている。
朝一番に、体力づくりのために日課にしているジョギングと筋トレをして、宿の朝食を済ませてすぐに出発した。
なぜ防具屋に行くかというと、防具を買うためではなく盾についての情報収集をして、戦い方の参考にするためだ。
この町は冒険者も多く防具の専門店があると聞いていたので来てみたのだ。
(見たいのは盾だけど、他にいい防具があれば買うのもありかな? いや、お金に余裕はないか……)
とりあえず入店する。
「いらっしゃい」
中年の男性が声をかけてきた。店の店主のようだ。
「何をお探しかな?」
「とくに決めてはいないです。いろいろと見てみたくて……」
ハナは腰にショートソード、左手にはルーカスを装備している。
ルーカスがいるから基本的に買う気はないのだが、「盾を見にきました」と言うと買う気があるように思われそうで言えなかったのだ。
「そうかい、自由に見ていっておくれ」
「はい」
まず目に入ってくるのが鎧だ。さすがに目立つけど、自分には無縁に思えた。いくら身体強化があるとはいえ、あんな物を着て動き回れる気がしないし、合うサイズもなさそうだ。チェーンメイルなどもあるが、けっこう重そうに見える。もし買うなら革製の胸当てぐらいが実用的なのだろうが、資金的な問題もある。
店内を見て回りながら、お目当ての盾コーナーへやって来た。大きさも形も様々な盾が置いてある。本来は用途によって、これだけ使い分けが必要なわけだ。だが、ルーカスは形を変えられるので、複数の盾を使い分ける必要はない。
ハナは、ふと一つの盾に目が留まった。円形の盾の内側に刃物が取り付けてある。
「これって予備の武器ってこと?」
疑問が思わず口に出てしまったところ、店主が近づいてきた。
「それは予備の武器ではないよ。スライドさせると刃の部分が円の外側に突き出るようになっていて、その状態で攻撃するのさ」
「へー、盾に武器を取り付けて、盾で攻撃できるようにしたってことですか……。つまり盾であり武器でもあるってことですよね?」
「そういうことだね。お嬢さんが持っている盾はシンプルな円形盾だけど、この盾は取り扱いが少し難しいから、あまりお勧めはできないかな。刃の部分が円の外側に突き出ているから、振り回すと自分や仲間を傷つけてしまうことがあるからね」
「なるほど。でも、盾に武器を取り付けるっていう考えは面白いですね。わたしには思いつかないかも」
ハナには『盾=防具』という固定観念があった。武器を取り付けて積極的に攻撃するというのは、まったく思いつかなかったのだ。思いついたのは、身体強化を利用して盾で『殴る』ことぐらいだ。
でも、それはしかたがないだろう。ハナは、ただの肉好きの『肉屋の娘』だったわけで、戦闘経験もないし、教えてくれる人もいなかったのだから。
「まあ、刃物が付いた盾は扱いが難しいし重量も重くなるから、やっぱりお嬢さんには合わないだろうね。お嬢さんが使うなら、スパイクの付いた盾がいいかもしれないね」
「スパイク? スパイクって何ですか?」
「スパイクの付いた盾はこの辺にもいくつかあるけど、スパイクっていうのは針やトゲのような突起のことだよ」
「あ、本当だ。そっか、これを敵に刺すんですね」
盾の形や大きさばかりに目がいってしまって、スパイクの役割にはあまり注目していなかった。
「そうだよ。魔物の突進や噛みつきなら、この盾で受けるだけで魔物に傷を負わせることができるし、自分からスパイクを刺しにいけば致命傷を与えることもできる。ただ、仲間や自分を刺さないように注意は必要になるけど、扱い方自体はそれほど難しくはないでしょう」
ルーカスを使う場合はスパイクを出したり引っ込めたりできるので、戦う時だけスパイクを出すようにすれば問題はなさそうだ。
「確かに、刃物に比べれば扱いは難しくなさそうですね」
「だが、注意すべき点もあるよ。スパイクが細いと曲がったり折れたりすることがあるし、太くしたり数を増やしたりすれば重くなってしまう。あと、スパイクを上に向けて置いておくと、人や物が刺さってしまう可能性もあるね」
「なるほど、スパイクにも一長一短ありと」
「まあ、盾に攻撃力を加えるかどうかは別にして、一般的に盾自体は耐久力がそれほど高くないから、敵の武器によっては貫通することもあるので過信は禁物だね」
防具屋の店主はそう言っているが、ルーカスの耐久力は世界最強の可能性もあるとハナは予想していた。
女神からルーカスを与えられた時に、「この盾を破壊できる者は、おそらくいないでしょう」と言われていたのだ。
破壊できないうえに変化させられるという、とんでもない性能なのだが、神様の盾なのだから当然なのかもしれない。
ただ、今は殴り倒すスタイルで戦っているが、この先もずっとこのスタイルだけでいくのは無理がある。
手が届かないほど大きい魔物だったら? 空を飛ぶ魔物だったら?
この先、殴り倒せない相手はいくらでも出てくるだろう。
だが、ここで新たなキーワード『スパイク』が出てきたのだ。
スパイクを上手く活用すれば、少し違った戦い方ができそうだ。
店主に「もう少し考えてみます」と言って、ハナは店を出た。
かなり参考にはなったが、今日は買わない予定だったので、そろそろ頃合いだ。
防具屋を出た後、ハナは冒険者ギルドをのぞいてみたが、めずらしくザワザワしていた。
なんとなく嫌な予感がしたので、そのまま町を出てウルフが出そうな場所へ向かうことにした。
徒歩で一時間ほどの、昨日とは別の場所へ向かう。
もちろん、さっき聞いた『スパイク』を試すのが目的だ。
ハナは常にルーカスを装備しているが、魂に収納した状態だと各機能が発動しない。
つまり、装備さえしていれば自動防御で守ってもらえるので、基本は常時装備。
通常は盾として装備しているが、屋内などで邪魔になるときは籠手に変化させて装備している。
籠手といっても、手から腕まで守るガントレットのようなものではなく、腕だけを守るアームガードという感じだ。
そして、女子には重いので常に身体強化もかけている。
最初は身体強化を続けていると魔力切れになってしまったのだが、最近は魔力が増えたのか魔力切れにはならなくなった。
つまり、ルーカスの機能を使うとハナの魔力が消費される場合があるのだ。
ただ、ここはゲームのような世界ではないので自分のステータス的なものは見ることができないため、何かをしたときに魔力が減ったかどうかを数字で確認できるわけではない。
あくまで状況から推定された答えだ。
歩きながらルーカスを見つめ、スパイクをイメージしてみる。
円の中央にスパイクを一本、根元の太さは親指くらい、指先から手首ぐらいまでの長さ、先端に向かって徐々に細くなり先端は針のように尖っている。
そのイメージで念じてみる。
(スパイク、出ろ!)
すると、瞬時にルーカスの中央に一本のスパイクが生えた。
「おおっ! でも、なんか痛そう?」
ハナ自身に刺さったら危険だが、これを魔物の急所に刺すことができれば致命的なダメージを与えることもできそうだ。
だが、実際にルーカスを構えてみると、ルーカスの自分側からだとスパイクがよく見えない。
目とか、特定の場所を狙ってスパイクを刺すのは難しそうに思えたので、いっそ狙うのはやめてしまおうとハナは思った。
今まで通り、ルーカスの中心で魔物の頭部を殴るつもりでいけば、結果的にスパイクがどこかに刺さるはずだと考えた。
戦法は一応決まり、あとは実戦で試すだけだと思っていたが、なかなかウルフと遭遇しない。
すでに町を出て一時間近くたっているので、ウルフと遭遇してもいいような場所まで来ているはずだ。
ウルフは基本的に森の中に住んでいるので街道まで出てくることはあまりないのだが、街道と森の間にある草原には時おり出てくる。
ハナはそういったウルフを狙って、街道から外れて森に沿って草原を歩いてきたのだ。
この世界では、人間と魔物の生息域はある程度明確に分かれている。それは、地球にはない『魔素』と呼ばれる物質の影響が大きい。
『魔素』というのは空気中に存在する天然の魔力と考えられており、魔物は体内の魔石に魔素を蓄え、その魔力で体を大きくしたり強くしたり、あるいは魔法のような特殊な攻撃を行うと考えられている。
つまり、強力な魔物ほど多くの魔素を必要とするため、魔石が大きくなり、魔素の濃い地域に生息している。逆に、人間は魔素を必要としないので、魔素の希薄な地域に住んでいる。
ハナは魔素についてそこまで詳しくは知らないが、一般常識としてあるていど理解していた。
そして、ウルフは比較的魔素が薄くても大丈夫なので、街道近くにも出現するということだ。
ただ、今日はまだウルフに出会っていない。
ならば……。
ルーカスの収納から、小型の竈と椅子を取り出した。
「じゃあ、焼きますか!」
ウルフを誘い出すという名目の、一人焼肉パーティーの開始だ。
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