2.盾とわたし
少女は右手に持った盾をしっかりと握りなおした。
左手にはショートソードを持ち、一気に駆け出した。
「えいっ!」
少女は右手に持った盾で、ウルフを殴り飛ばした。
続けて二頭目、三頭目と、同じように殴り飛ばしていった。
吹っ飛んだウルフは地面に横たわりピクピクしている。
少女は左手に持った剣をウルフの首にあて、順番にとどめを刺していった。
少女の名前は『ハナ』。
転生してから六年が経ち、冒険者になっていた。
剣ではなく、盾で殴り倒すのが現在のハナの戦闘スタイルなのだが、もちろん理由がある。
剣術など習ったことがないというのもあるが、剣で獲物を切り刻んで倒すと売る時に価格が下がってしまうからだ。
一年ほど前に冒険者になって、成人である十六歳になってようやく実家から旅に出たばかりなので、しっかり稼いでいかないと冒険者を続けていけなくなってしまう。
だから、少しでも獲物を高く売るのは重要なのだ。
ハナは倒したウルフに近づいて、順番に収納していった。
が、袋などは持っていない。
ハナが持っている盾に『収納』機能が付いているのだ。
『収納』だけでなく『身体強化』と『自動防御』機能もついており、これがあるから普通の女性であるハナでもウルフを殴り倒せるというわけだ。
ハナは、少し離れたところに置いておいた竈と椅子のところへ歩いて行くと、椅子に座った。
そして、そこで焼いていた肉を口に入れる。
ウルフと戦っている間に、ちょうどいい具合に焼けていた。
美味しい肉を食べることは、幸せそのものだ。
ハナの表情は緩み切っていた。
「あ~、やっぱお外で焼き肉は美味しいな~」
森の手前の草原に竈を置いてウルフをおびき寄せるために肉を焼いていたのだが、そもそも自分が焼き肉を食べたくて仕方なかった面が強い。
ハナは冒険者だが元は『肉屋の娘』で、とにかく肉料理が大好きなのだ。
「ウルフを納品したら今夜もお肉だ! 一人でウルフ三頭倒せば、それなりにいい稼ぎになるしね。と言っても、ボッチは卒業したいけど……」
ハナはソロの冒険者だ。
ハナは自分の盾を見つめた。
「でも、ルーちゃんがいるから、淋しくはないよ」
『ルーちゃん』というのは、ハナが持っている、この特別な盾のことで、本名は『変容の盾 ルーカス』という。
念じれば変化させることができるという盾だ。
ルーカスは一見普通の木製の円形盾に見えるが、女神から与えられた特別な盾なのだ。
ただ、ルーカス自体に意思などはないので、会話はできない。
ハナが一方的に話しかけているだけだ。
他人が見れば『あぶない人』だと思うかもしれないが、本人は気にしないことにしている。
ハナは、ルーカスを与えられてから、どのように変化させるのが良いのかと、ずっと試行錯誤をしてきた。
最初は小説の主人公のように剣でカッコよく戦おうと盾を剣に変化させたりもしたのだが、実際に剣を持ってみると上手く扱うのは難しいと思った。
金属なので重すぎたのと、刃物を振り回すこと自体が怖いと感じたからだ。
そもそも転生するときに『身を守れる道具』として女神から盾を与えられたのに、剣では身を守れる気がしなかったのだ。
そこで、さらに試行錯誤を重ねて、ある種の『機能』を持った盾に変化させることを思いついたのだった。
そして今、『身体強化機能』でパワーとスピードを上げて、ウルフを殴り倒していたわけだが、念じればどんな機能でも簡単に付けられるというわけではない。
どんな機能を付けられるのかという基準は、はっきりとは分かっていないが、ハナは『イメージ』の差ではないかと予想している。
実際、ルーカスの形を変える時に、棒や三角や四角のような単純な形には変えることができたが、複雑で『具体的にイメージできないような形』には変えることができなかったのだ。
現在ルーカスには『身体強化』『自動防御』『収納』の機能が付いているが、魔法を出すような機能は付けることができていない。
ハナ自身が魔法を使えないので、十分なイメージができないのが原因だろう。
また、魔法攻撃に備えて『魔法反射』という機能を試みたが、魔法攻撃を受けたことがないので、機能が付いているのかどうか自体定かではない、というようなものもある。
ルーカスは本来、女神のレリーフがある金属製の美しい盾なのだが、それだと目立ってしまうので今は安っぽい木製の盾に見えるようにしてある。
いかにも弱そうなハナが特別立派な盾を持っていることを他人に知られると、それを奪おうとする者が現れて、危険な目に合うのは容易に想像ができるだろう。
だから、他人に特別な盾を持っているとは言えないので、簡単に仲間を作ることもできないのだ。
ハナがソロで冒険者をしている理由だ。
「さて、町に戻ろうか」
ボッチなので、一方的にルーカスに話しかけているわけだが、当然返事はない。
ハナは、活動拠点にしているヘムルの町へ戻ることにした。
移動にあまりお金をかけられないので、徒歩が基本だ。
ヘムルの町まで、およそ一時間歩くことになる。
今はまだ日が高いが、ヘムルへ着く頃には日も傾くだろう。
ヘムルは、ロベリア王国の中心から少し東にある町だ。
ヘムル周辺の森にはDランクの魔物が多いので、ヘムル自体Dランクの冒険者が多い。
冒険者のランクはS~Fまであるが、ハナは現在Eランク、下から二番目だ。
Eランクは『初級冒険者』で、Dランクは『一般冒険者』なので、Dランクの冒険者は非常に数が多い。
したがって、ヘムルの町は冒険者が多く、武器屋や防具屋などの専門店もある。
町に戻ったハナは、町の入り口近くにある冒険者ギルドの『買取り所』へウルフを納品して証明書を受け取ると、町の中にあるギルドの受付に買取り所の証明書を提出して報酬を受け取った。
すでに夕方なので、ハナはギルドに併設された酒場で少し早い『肉ディナー』にすることにした。
そう、注文するのは当然肉料理だ。
贅沢はしないが、しっかり食べることは冒険者として重要なのだ。
けっして、言い訳ではない。
ハナは肉屋の娘なので、狩った獲物は自分で解体することもできるのだが、作業台やきれいな水などがある場所で解体したいので、なかなか自分で解体する機会はない。
将来的には、ガンガン狩りして、ガンガン解体して『肉ざんまい』するのがハナの夢だ。
肉料理を食べながら、『肉ざんまい』の日々を夢想するのであった。
ただ、いまのハナにとって最も重要なのは、『肉ざんまい』するためにルーカスを使ってどう戦うかだ。
武器を使いこなす自信がないので盾にして殴り倒しているわけだが、この戦い方だけでは行き詰るような気がしていた。
かといって、戦い方を教えてくれる知り合いもいないし、ルーカスのことを他人にペラペラ喋るわけにもいかない。
ハナが住んでいた町には武器や防具の専門店がなかったので、参考になるようなものもなかった。
そこで、家を出て冒険者の多そうなヘムルへ移動してきたのだ。
「そういえば、明日はどうしようかな……」
食事の手を止めてしばらく考え込む。
「そろそろ、あの店に行ってみようかな。それが、この町に来た目的の一つでもあるし」
行き先は決まった。
再び肉を口に運んだ。
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