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人生三度目聖女はグレました!?  作者: 美依


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 侍女長と入れ替わるように訪れた侍女候補の三人が、荷物の整理を請け負ってくれる。人となりはまだわからないが、印象は悪くなかった。


 一人を除き、とクリスティアはジェシーと名乗った若い侍女に落第点をつける。淡い金髪に青みを帯びた灰色の瞳、整った顔立ちは美少女の部類に入るが、使用人の評価は仕事に対する姿勢だ。


 たとえ愛想が悪くても、役目を忠実に果たすならクリスティアは気にしない。けれどジェシーは他の二人にさりげなく押しつけ、手を抜いているのがわかった。


 それなのにクラウスの元へ向かうクリスティアの案内を、率先して引き受ける。漠然とした感じの悪さがあり、雑談する気にもなれず口を閉じていればジェシーも無言だった。


(案内とは?)


 完全に自分のペースで歩みを進めている。静かにクリスティアが消えても、気づかない気がした。


「この者はクリスティアに仕えるに値しないな」


 様子を窺っていたレーテにも駄目出しされる。万人に好かれるなどありえないので、クリスティアを嫌うのは構わないが、使用人の立場で態度に出すのは駄目だ。


 侍女候補から外そうとクリスティアは決める。ジェシーは案内ロボットだと脳内変換し、後に続き足を踏み入れた庭園は、邸の壮麗さに負けないほど美しく整えられていた。


 色とりどりの花が咲き誇る花壇の間を、白い石畳の小径が緩やかに伸びている。少し奥には噴水があり、陽光を受けた水がきらきらと輝いていた。


 その一角には白いガゼボがある。テーブルにはすでにティーセットが用意され、白磁のポットからはかすかに湯気が立ち上っていた。


「こちらです」


 急に笑顔になったジェシーに、クリスティアはぎょっとする。先ほどまでとは打って変わって恭しく促され、態度の違いに『は?』と訝しみガゼボへと足を進めると、先客の姿が目に入った。


 白いテーブルクロスの掛けられたテーブルの向こうに、クラウスが座っている。クリスティアに気づくと、すぐに立ち上がった。


 ジェシーの態度も思惑も、どうでもよくなる。自然と、クリスティアは表情が綻んだ。


「お待たせしてしまいましたか?」

「いえ」


 わずかだが口元を緩めるクラウスの姿に、穏やかなものを感じる。肩の力が抜けた私的な姿に、これから同じ邸で暮らすのだと実感し、クリスティアはどうしようもなくときめく。


(これから色々な姿が見られる!?)


 推しからしか得られない栄養はあるが、眼鏡などかけた姿を見たら供給過多で、あまりの尊さに呼吸を忘れる気がした。


 促されて、向かい合った席に座る。応接室よりも距離が近い。


(何このご褒美!)


 クリスティアが幸せを噛みしめていると、背後に控えていたジェシーをクラウスが下がらせる。それに、レーテがついていく。


 お茶は控えていたクラウスの侍従が淹れ、二人の前に茶器を置くとその場を辞した。


 花の香りを含んだ風が、二人の間を静かに通り抜けていく。


「部屋は急ぎ用意したので、ベラーニ嬢の好みに合わせ変えてもらってかまいません」

「とても素敵なお部屋でした。急いで用意してくださったとは思えないほどです」

「そうですか。けれど、何か気になるところがあれば遠慮なく言ってください」

「はい。でも、今のままで充分気に入っています」


 推しが用意してくれた部屋に手を入れるなどもってのほか! そんな気持ちを込めて、クリスティアは伝える。クラウスの気遣いに、胸が温かくなった。


「ベラーニ嬢」

「あの、私のことはクリスティア、もしくはティアとお呼びください」


 経緯はどうであれ、婚約者の座を得たのだから家名ではなく名前で呼んでほしい。

 耳に心地よい声で聞きたいと、贅沢にも思ってしまった。


「では、俺のこともクラウスと呼んでください」

「はい! クラウス様」


 この世界では、名前呼びを許されるのは特別な関係だ。

 何度でも繰り返し口に出して呼びたいが、クリスティアはぐっと我慢する。機会はこれからいくらでもあった。


「クラウスでかまわない」

「はい?! いえ、はい、いずれ……」


 思いがけない提案で、クリスティアは驚く。


「心の準備ができましたら」


 脳内では呼べても、口に出すには気合いがいる。今すぐには無理だ。


「クリスティア」


 名を呼ばれ、クリスティアは落としていた視線をぱっと上げる。美しい顔を真正面から見て、少し遅れて鼓動が逸り出した。


(名前を呼んでくれた!)


 平静を装い喜びを噛みしめる。胸の中がくすぐったくて、クッションをバシバシとたたきたいような、抱きしめてごろごろと転げ回りたいような衝動に駆られた。


「邸では遠慮なく過ごしてほしい。あなたはいずれ、この家の女主人になるんだ」

「……それは、権限を有するということですか?」


 解呪のために迎え入れたお飾りの妻ではなく、実務も担う認識でいいのかとクリスティアは確認する。弱みにつけ込んで公爵家に押しかけておいて、夫人として君臨するなどおこがましい気がした。


 何より、今はまだ婚約者でしかない。

 破棄される可能性もあった。


 けれどクラウスは躊躇なく頷く。


「使用人への指示も、邸のことも、あなたの采配で自由にしてかまわない。だがルドウィグ家について、焦って覚える必要はない」

「それ、私に都合が良すぎませんか?」

「呪いを解いてくれるのだろう?」

「もちろんです」


 そのためにここにいる。本来の目的を忘れてはいない。


「ならば、当然の待遇だ」

「……ありがとうございます」


 絶対にクラウスの役に立つ! と、クリスティアは決意を新たにした。


「わからないことがあれば、遠慮なく尋ねてほしい」

「はい……あ、では、侍女の決定権は私にあります?」


 ジェシーの態度は呆れるばかりだ。

 我慢する気も、わざわざ歩み寄る気もない。遠ざけるのが一番だ。


「ああ。侍女長と話して決めるといい。護衛は俺が決めるがいいだろうか?」

「護衛ですか?」


 ぱっと、クリスティアの脳裏に騎士が浮かぶ。

 ときめき、テンションがあがる存在だ。


「外出時には必ず連れて行ってくれ。我が家は敵も多い」

「わかりました」


 今後は、こっそり出かけての食べ歩きはあきらめるしかない。

 いっそ堂々と――そんなことを考えていると、クラウスの視線が庭園へ向けられているのに気づく。


 自然と目線の先をクリスティアは追い、人の姿を見つけた。


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