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いつも誤字報告ありがとうございます。
誤字脱字なくならなくてすみません…
物事を自分の見たいようにしか見ず、都合よく解釈した挙げ句、言葉すら通じない化け物はどこにでもいる。それがまあまあ近い親族にいると厄介度は桁違いだ。
(ほんと腹立つな!)
湧き上がるイライラを、クリスティアはどこかへぶつけたくなる。心がとげとげしていた。
叔父たちがあれだけ強気だったのは、病弱イコール気が弱いと思い込んでいるからだ。以前から、そんな考えが滲み出ていた。
(あーもう! もっと色々言えばよかった)
前世で社会の荒波にもまれているので、クリスティアはすっかり気が強くなっている。不当な扱いさえも、粛々と受け入れる前々世のシャーランではない。
(あの二人は直球じゃないと嫌味も通じないんだもんな)
貴族の言い回しで嫌味をぶつけても理解できない。
かといってあまりにも直球では角が立ちすぎる。一応父親の弟なので、クリスティアも配慮はしていた。
「お嬢様、お疲れ様でした」
応接室では壁際に控え空気に徹していたメリーは、一部始終を目撃している。拒絶です、とクリスティアが告げた途端笑うのを堪えていたが、向けられる眼差しにはいたわりが滲んでいた。
「ほんとにね。もう押しかけてこないといいんだけど」
良識というものを、どこかへ置き忘れてきたような人たちだ。
小娘と侮っているクリスティアに、現実を見なさいと促されたところで己を省みるとも思えない。
「はっきり拒絶されていましたが、逆恨みにお気をつけくださいね」
「ありえそうで嫌なんだけど……」
次に何か仕掛けてきたら、男爵家に抗議するとクリスティアは決意する。うっかりジェイドが巻き込まれたら最悪だ。
(いっそお父様に伝えて出禁にしてもらった方がいい?)
兄弟仲はお世辞にもいいとは言えない。
温厚なアントンも、叔父の自己愛の強い性格には辟易していた。
婿入り先にも苦慮したらしく、男爵家に引き取ってもらう対価の事業提携だ。
おかげで破産寸前だった男爵家は、今は持ち直している。贅沢をしなければ貴族の暮らしは続けられるが、野心の塊の叔父と、そっくりに育ったジョセフは無謀にも高みを目指していた。
「姉様!」
離れの自室に向かっていると、ジェイドが駆け寄ってくる。表情がいつもと違うことにクリスティアは気づいた。
「どうしたの? ジェイド」
「眉を吊り上げたジョセフが離れに向かうのが見えたので……」
うわ、とクリスティアは心の中で嫌悪の声を上げる。逆恨み――最悪な予想が当たったらしい。
「来ていませんか?」
心配だ、と顔に書いてあるジェイドが可愛くて、ぎゅうっと抱きしめたくなる。けれど堪えて、代わりにクリスティアは微笑んだ。
「来ていないわよ」
傍らでメリーも頷く。
先ほどのやりとりで憤ったジョセフは衝動のままに動き、離れの結界に触れたことで目的を忘れたのだろう。
対策をしていて良かったと、クリスティアは胸を撫で下ろした。
離れにまで押しかけられたら、迷惑どころではない。
「何か急用でも思い出して、引き返したのではないかしら?」
「そう、なんですかね?」
軽く首を傾げるジェイドに、クリスティアは頷く。
離れの秘密を話すわけにはいかなかった。
「でも押しかけてくると悪いから、出かけちゃいましょう。ジェイド、この前言っていたカフェに一緒に行かない?」
「行きます!」
即答するジェイドに、クリスティアは自然と表情が綻ぶ。
嫌なことがあったときには、楽しいことで上書きすればいい。
ただ勝手に、ジェイドを連れ出すわけにはいかないので、サシャから許可を貰ってくるように促す。
案外あっさり許可が出たらしく、すぐに笑顔で戻ってきたのでさっそく街へと向かった。
貴族街の一角に店を構えるそのカフェは、白い石造りの建物だった。
大きなアーチ窓から陽光が差し込み、窓辺には色とりどりの花が咲き誇っている。目を輝かせるジェイドを微笑ましくクリスティアが眺めていると、店の馬車止めで静かに停まった。
馬車から降りて店先に立つだけで、焼き菓子と紅茶の芳醇な香りが漂ってくる。午後の陽射しを受けたカフェは、穏やかな賑わいを見せていた。
「お嬢様、お帰りの際はお声がけくださいませ」
クリスティアへ声をかけた御者は、馬車を待機場所へと移しにいく。
メリーとジェイドの従者は空気に徹し、静かに控えていた。
「ジェイド、入りましょう」
「はい」
扉を開けると小さなベルが澄んだ音色を響かせて、甘い香りが強くなる。ショーケースには手土産にもできるケーキ類が並んでいて、クリスティアはジェイドの手前平静を装っているが、内心ではかなりテンションを上げていた。
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれた店員がすぐに、窓際の席へ案内してくれる。ジェイドと向かい合わせに座った。
店内は落ち着いた木目調で統一されていて、評判の店だけあり多くの客で賑わっている。それでも騒々しさはない。
控えめな話し声とティーカップが触れ合う澄んだ音だけが響き、誰もがお茶の時間をゆったり楽しんでいる。店員は客の視線で要望を察し、無駄のない所作で給仕をこなしていた。
「僕、こういうお店初めてです」
「好きなものを頼んでいいのよ」
「本当ですか?」
ぱっと表情を明るくするジェイドに、クリスティアは心から棘が抜け落ちていく。可愛いは、やはり正義だ。
「ええ」
メニューを広げると、ジェイドは真剣な表情で見比べ始める。その様子に、クリスティアは笑みがこぼれた。
「姉様、この苺のタルトも気になりますが、こちらの季節限定も気になります」
「そうね、どれも気になるわね」
静かに同意を示す。
クリスティアも気になっていたものだ。
「姉様、どれも美味しそうなので半分こにしてもいいですか?」
遠慮がちに尋ねる姿が愛らしい。
「もちろん。ジェイドが食べたいもの選んで半分こしましょう」
「姉様はそれでいいんですか?」
「うん。ジェイドの気になったもの、私も気になっていたの」
「……では、苺のタルトと季節のパフェを」
「もう一品頼んでもいいわよ」
「それは食べ過ぎです」
「はい」
ジェイドが良い子すぎると、クリスティアは己の欲を反省する。店員へ注文を済ませ、穏やかな時間に自然と頬が緩む。
「姉様、外出続きで体調の方は大丈夫ですか? 無理していませんか?」
「大丈夫よ。最近は調子がいいの」
純粋な気遣いに、クリスティアは胸が痛くなる。さりげなく体調面から話を逸らし、他愛のない会話をしていると注文の品が運ばれてきた。
「アイスが溶けると悪いから、パフェから食べる?」
「はい」
ジェイドは嬉しそうに、スプーンを手に取る。自然と眉尻の下がったクリスティアは、ふわりと湯気が立ちのぼる琥珀色の紅茶を一口飲む。上品な香りが口いっぱいに広がった。
(癒やされるなぁ)
面倒事が霞んでいく。
弟を甘やかす姉でいられるこのひとときが、とても愛おしく思えた。




