第四十三話 紗良とヘアスタイル
女子の日の痛みが嘘のようになくなって四日目、時々嫌な感触はあるが酷い初日に比べれば楽なものだ
そんな女子の日を克服しつつあるこのボクを気遣いすることもなく、女帝紗良が学校帰りにボクについて来いと半ば強引に連れていかれた
道中ボクは女帝が何を考えているのか考察してみる
このボクを夕暮れ時に連れ回すとは・・
不屈の精神の持ち主のこのボクが女子の日を制圧しつつあるからいいものの・・普通女子ならすでにイラついて喧嘩になってるに違いない筈・・
それを承知でボクをどこに誘うと言うんだ?
まさか・・
ボクとリキのあの日の事を執拗に上から目線で聞いてきてこのボクの弱みを握りそれをネタにボクにいかがわしい仕事をさせようとしているな?
だが!
甘いのだよ・・紗良君・・
ボクは君より既に進んでいるぞ?
なにせボクは故意ではないが男子の胸を直に触っているのだ!
このボクに弱みなどないのだよ?
「ざまぁみやがれ・・女帝め!」
と最近たまに出てしまう心の声が、ジャストミートで女帝紗良に向けて放ってしまったボク
それを聞き逃さなかった女帝紗良が鬼の形相に変貌仕掛けながらこっちを向いて語りかけてきた
「ざまぁ・・だって?誰に言ったのかな?女帝って・・誰のこと?千秋・・?最近、お仕置きが溜まってたなぁ?仕事してるから大目に見てやったのに・・」
ギラッと光る目にフルフルと小動物のように小刻みバイブレーションをお披露目することになったボク
しかし紗良は直ぐに呆れ顔になって話し始める
「相変わらずアホなところは治らないね?まぁいいわ、それより今日はわたし美容室で髪型変えようと思って・・千秋に一緒に来てもらって見てもらおうと思ってるんだけど・・」
その言葉にボクは恐る恐るニヤッと小さめなほくそ笑みを見せてやる
ほう・・心境の変化か?
女帝から更に進化したいと・・
となると次は神か?いや・・鬼の形相だからな・・鬼にでもなるつもりか?
もしそうなら鬼の神・・
鬼神だと!?
本格的にボクを弄り倒してくるつもりか!?
相手が鬼神となるとますます手が付けられなくなるな・・
だが鬼神になるか否かはボクの手中にある!大人しくこのまま女帝になっていてもらおうか・・!
と脳内で紗良が神格化したところで、面倒くさいが紗良に真意を聞いてやることにしたボク
「そうなんだ〜へぇ〜今でも十分女帝・・じゃなくて・・女子らしいお団子で良いと思うけど・・何で急に・・?」
ふっ、どうせ智秋にでも髪型変えたらもっと可愛くなるんじゃね?的に言われたに決まってる!
アイツはボクと違って少しアホだからな!
考えもなしに紗良に話したんだろ
真に受けた女帝・・
意外と可愛いとこあるじゃん!
アホな姉弟に自分が当てはまるのも棚に上げて、紗良を子猫を見る目で見てやると紗良が話してきた
「まぁ一番は仕事かな?千秋のマネージャーに進路が決まるなんて思わなかったから、今のままでも良いんだけど、一応人気モデルのマネージャーだし?もうちょっと垢抜けようと思って」
ほうほう・・
あの女帝が・・
ついに色気づいたか・・
女帝と言ってもやはり女子だな・・
まぁ紗良も頑張ってるしな、給料が入ったとかこないだ喜んでたの見てるし・・
仕方がない・・このボクが女帝に相応しいヘアスタイルを勧めてやるとするか・・
そう思ったところでボクはスマホを取り出し、あるところに電話をしてやる
コール3回以内で相手の電話が繋がった、流石アンナさん
【お電話ありがとう御座います、AKAI-RINGOの・・・】
と言いかけたところでボクが話しだす
「あの・・いつもお世話になってます・・akiですけど・・忙しい所すみません」
その声に電話の向こうのアンナさんも気が緩み普通に話してきてくれる
【千秋さんかぁ、どうしたの?仕事?あれっ?私何も聞いてないけど?】
少し慌て気味のアンナさん、ボクは少し笑って話を続ける
「ふふふ・・仕事じゃないですよ、ボクのマネージャーの紗良がヘアスタイルを変えたいって相談を受けてて・・アンナさんならきっといい提案してくれると思って電話しました」
それを聞きアンナさんは何故かテンションが上がって話し始めた
「私やっていいの!?ほかでやっちゃ駄目だから!?今時間空いてるから紗良さん連れてきて♪彼女の髪目付けてたんだよね♫ほら、彼女クールでしょ?似合うとっておきのヘアスタイルあるから♬すぐ来てね!」
そう言って勝手に電話を切ってしまったアンナさん
テンション爆上がりだったな・・
クールな彼女か・・
もしや・・
アンナさんもついに女帝のオーラを感じ取ったか?
とっておきのスタイルとはもしかして!
高貴な女帝の巻き巻きとんがりヘア!!
よしっ!ボクの紗良への仕返しをアンナさんに託す!
待っててくれ!アンナさん!ボクは今から女帝を引き連れてお店に行ってやるぜ!
脳内で今年一番の仕返しをするチャンスが巡ってきた事をこぶしを上げて喜んだボク
気を取り直しておすまし顔を作ってやるとボクは紗良に話した
「紗良?ボクのスタイリストのアンナさんが髪やってくれるって、凄いやる気だったからきっと似合う髪型にしてくれると思うよ」
笑いを堪えて何とか普通に言ってやったが紗良は何だか嬉しそうにしてボクに話す
「ほんと!やった!アンナさん直々に弄ってもらえるんだ!千秋〜♪ありがとう!やっぱり持つべきものは友よね♫」
持つべきものは友か・・
ちょっと良心が痛むぜ・・
だが!もう後戻りはできないのだよ・・
残酷だが・・わかってくれ・・紗良・・
ボクは紗良にわからないように軽くほくそ笑んでやると、紗良を連れてアンナさんの店へと赴くのであった




