No. 93 静かなる異変
「随分と賑やかだな••••••」
街の中心に来た感想。
ここに来る途中も賑やかだったが、ここは一段と賑やかな場所である。
なんだろう、市場的な?
もしくは商店街。
そんな感じの場所である。
こういうところって、あまり好きじゃないんだよな••••••。
オレは遠い目をする。
「あら、スピカちゃんじゃない」
オレがここではない何処かを見ていると、一人のお姉さんがスピカに話しかけていた。
「あ、喫茶店のお姉さん。久しぶり!」
「久しぶりね。いつ帰ってきたのかしら?」
「昨日だよ。お父さんとお母さんも帰って来てるよ」
「あら、そうだったの?水臭いじゃない。早く言ってくれればいいのに」
と、スピカはそのお姉さんと話を続ける。
その間にオレは現実に帰って来た。
「ふぅ、嫌なこと思い出したな••••••」
「••••••何を思い出してたの?」
「聞くな。どうでもいいことだ」
日本にいた時の市場、商店街絡みの嫌な思い出だ。
客観的に見ればどうでもいいことだが、オレにとっては思い出したくもないことである。
「大丈夫だ、ここは市場でも商店街でもない」
「••••••何のこと?」
「いや、気にしないでくれ」
オレの独り言を拾い、ティアが不思議そうな顔で見てくる。
オレは話題を変えるようにスピカを見る。
「貴族って聞くと偉そうにしてるイメージがあったんだけどな。お前とかスピカを見てると、全然そんなことないな」
「••••••フォルティシモの人達は変わってるから。基本的には平民には偉そうにする貴族が多いよ」
「お前は?」
「••••••ボクはスピカの影響かな。それに••••••」
ティアが辺りを見回して続ける。
「••••••身分の差があったとしても、命の価値は等しいから」
いきなり話がぶっ飛んだ気がした。
オレは思わずティアの顔を凝視する。
ティアはいつも通りーーいや、いつも以上に無表情で淡々と告げる。
何処か、冷めたような口調で。
「••••••王族も貴族も平民も。死んでしまったらみんな等しくお仕舞いだから」
「••••••ティア?」
おかしい。
何かがおかしい。
ティアじゃない誰かがティアの身体を使って喋ってるみたいだ。
よく見ると、ティアの目に正気が無かった。
「••••••みんな、変わらない」
オレはティアの肩を掴む。
自分でもよくわからないが、これ以上は止めなくちゃいけない気がした。
「••••••人間は同じように生まれ、同じように生きて、同じように死ぬ。変わらない。変わることはない。今も昔も。だから私はーー」
「ティアッ!!」
肩を揺さぶり叫ぶ。
辺りの視線がオレ達に集まっているが、それを気にしてる場合じゃない。
「ティアッ!!」
ティアの目を覗き込みながらもう一度名前を呼ぶと、ティアの目に正気が戻った。
「••••••シュウヤ?」
「お前、大丈夫か?」
不思議そうに首を傾げるティア。
「••••••何が?ボク、何か言ってた?」
覚えてないのか?
何だったんだ今のは?
「シュウヤ!ティア!どうかしたの!?」
街の人達と話していたスピカがオレ達のところに駆け寄って来る。
「スピカ。ティアを屋敷に帰らせるぞ。本人は覚えてないみたいだが、何かおかしい。大人しく寝かせよう」
「よくわからないけど••••••わかったよ」
スピカが頷く。
オレ達は、屋敷に戻った。
その間、ティアはずっと不思議そうな顔をしていた。




