No. 87 道中
ラウトに向かう途中。
この世界は仮にも一応ファンタジーなので、街の外では普通に魔物に遭遇する。
そして、魔物はよくわからんが、人間を襲うのがお仕事みたいなものなので、馬車という絶好の獲物を見つけたらホイホイ寄ってくる。
まあ、つまり何が言いたいのかと言うと••••••。
「あー、もう!どんだけ寄ってくんだよ!いい加減にしろ!お前らはゴキブリか何かか!」
道中、大量発生したカブトムシの魔物に遭遇した。
時期は冬なのに、この世界のカブトムシは逞しい奴らだ。
見た目は日本でもお馴染みのカブトムシ。
ただし、大きさは人間と同じくらい。
ハッキリ言おう。
気持ち悪いと!
「大体、何であいつらあんなに黒光りしてるんだよ!アレじゃ、まんまゴキーー」
「おっと、それ以上は言うな。普通のカブトムシが可哀想だ」
そっと、背後からリオンがオレの口を塞ぐ。
••••••まあ、確かに今のは失言だったな。
「••••••」
目で、手を離せと訴えかける。
リオンはすぐに離してくれた。
「ふぅ、助かった」
「もしや強く塞ぎ過ぎたか?それはすまなかったな」
ぶっちゃけ、鼻まで塞がれてたからな。
結構苦しかったからな。
「てか、オレよりあいつを何とかしろよ」
オレが指差す先を見て、リオンは無言で首を振る。
どうやら嫌らしい。
オレはそちらに顔を向ける。
凄い勢いで魔術の不協和音を撒き散らすスピカを。
「墜ちて墜ちて墜ちて墜ちて!!!黒光りする昆虫はカブトムシでもクワガタでもゴキブリでも!!全部絶滅して!!!」
スピカの幻奏術が炸裂する。
この馬車は、何でもありなリオンの図書館からよくわからんが音を遮断する、いや、音に乗った魔力を弾く?ような効果の魔導書を展開することで物理的なダメージは防いでいる。
ただし、精神的なダメージは別。
この音を聞いているだけでSAN値がゴリゴリ削られていく。
オレやリオン、スピカ以外はみんな馬車の中で可能な限り音を聞かないようにしている。
まあ、気持ちはわかる。
てか、何でオレは外に出ているのだろうか?
バカなんじゃないか、数分前のオレよ。
「うーむ、凄まじい威力だ。天使の精神力も削るとは、実はかなり恐ろしい術だな、これは」
どうやらリオンも、精神ダメージを受けてるらしい。
オレよりはマシみたいだが。
天使の精神力すらも削るとは••••••。
だが、まあ、物理的なダメージが無いだけいいだろう。
物理的なダメージも喰らっている黒光りする彼らは、一匹、また一匹と墜落していく。
まさしく滅びの歌。
何というか、連携向きの術じゃないな。
敵味方関係無く撃墜されるだろ。
スピカ••••••恐ろしい子!
「というか、何があったんだよ」
カブトムシに親でも殺されたのか?
いや、親は生きてるけど。
今のスピカを見ていると、そんな感じの何かがあったんじゃないかと思ってしまう。
カブトムシだけじゃなく、黒光りする昆虫全般がそうみたいだけど。
「気になるな」
「秋矢?」
「いや、何でもない」
ふと思った。
実は、オレはスピカのことをあまり知らないなと。
いや、それを言ったら真冬以外、いや真冬も含めて周りの人間のことは知らないことが多いけども、その中でもスピカについては知らないことが多い気がする。
なんというか、重要なことは全部秘密にされているような?
その辺の話を今回、ラウトに行くことで話してくれるといいのだけど••••••。
まあ、期待はしないでおこうか。




