No. 80 テロリストside3
「••••••はあ、何処かに俺を満足させられるような実力を持った奴はいないのか」
「発言がまさしく戦闘狂だね」
お前を満足させられるような奴はそうそういねぇよ、という発言は何とか口の中に押し留める。
世の中には口にしてはいけないことが有るのだと、アルルは大変良く理解していたのだった。
「こうなりゃ、玉砕覚悟でアルジュナの奴に戦いを挑んでみるか。あいつ暇そうだし」
「言い方がまるで愛の告白をしに行くようだね」
いつの間にかに復活を果たしていたゲーデが燕尾服を整えながら、そう言った。
「うぇ、もう復活したの?」
「うむ。更に、君のおかげで幼女にボコボコにされる悦びに目覚めてしまった」
「うわぁ••••••」
ドン引きして後退るアルル。
「キモイ••••••いや、知ってたけど、本当にキモイ。それと、私は幼女じゃない」
「ああ、そういやお前、見た目は幼女だが、実際は年齢不詳のBBAだったな」
「ふんっ!!」
言ってはいけないことを言ってしまったジークフリートに腹パンが炸裂する。
ただし、ジークフリートなのでダメージは無かった。
寧ろ、殴った方がダメージを受けていた。
「いたい••••••」
哀愁漂う幼女。
ゲーデはその背中に同情的な視線を送る。
「しかしな、ゲーデ。前から思っていたが、幾ら何でもロリコンはアウトだと思うぞ」
戦闘狂であることを除けば、(三人の中では)比較的常識人なジークフリートが忠告する。
「安心したまえ、ジーク。私にも節度はある。イエス・ロリータ・ノータッチ。幼女に関してはあくまで愛でるだけさ」
お前の何処に節度が有るんだとか、その発言がすでにアウトだとか、色々言ってやりたい衝動に駆られたが、言っても無駄だと理解しているので、何も言わない。
「それより、アルジュナに戦いを挑むのは無理なのではないか?確かに彼は我々の中で、最強の暇人と言えるほど特に何もやっていないが」
「あいつ、別に戦いが嫌いなわけじゃないだろ?寧ろ、俺と同じように強者と戦うのは好きな方だろ」
「君ほど戦いに情熱を注いでいるわけではないと思うが••••••」
というか、ジークフリートクラスの戦闘狂は世界的に見てもそうはいない。
おそらく、戦闘狂のランキングがあればトップランナーであろう。
「一見暇そうでも、彼には彼の目的があるのだろう。そっとしておくべきではないかね?」
「うーん、そうだな••••••」
少し考え込む。
「まあ、でも。いつかは手合わせしたいな」
ジークフリートの中では、それで妥協するらしい。
••••••相手にしてくれるかは別として。
「他に暇そうで、戦ってくれそうな奴は••••••シュテンかナタくらいか。他に思い当たる連中は居場所がイマイチよくわからん」
ジークフリートが所属している組織は、メンバーがとにかく自由人ばかりな上に、我が強い連中ばかりなので、自分勝手に動き回るのがほとんどである。
よって、仲間達も動向を知らないことが多い。
「シュテンなら気まぐれに受けてくれるかもしれんな。彼女の場合は、戦いとは遊びのことだからな。ナタは••••••ストーカー並みにしつこくすればいいのではないか?」
「それは可哀想だからやめたげてよ!」
変態のアドバイスを横からアルルが止める。
だが、時すでに遅し。
「ふむ、参考にしてみようか」
ジークフリートは、割と本気でやろうかと考えていた。
「ああ、シュテンにナタよ。ジークを止めることの出来ない非力な私を許してくれ」
ゲーデが、芝居掛かったポーズを取る。
色々と手遅れな現状に、アルルの口からため息が出た。
「お待ちしておりました」
ダンジョンから出ると、一人の男が待ち受けていた。
三人が同時に顔を顰める。
「毎回毎回、資格を持っているわけでもないのにどうやって出口を把握しているのかね?」
疑問と不信感の混じった問い。
このやり取りは、今まで何度も繰り返してきたが、答えは今だにわからない。
「まあ、いいではないですか。それで、アレは?」
「••••••はい、これ」
素っ気なく、アルルが男に本を渡す。
それは、鎖に絡まれた分厚い本だった。
「ありがとうございます。今後も、よろしくお願いしますね」
「勘違いするなよ。俺たちは盟主にお前に渡すように言われているから渡しているだけだ」
嫌悪感剥き出しの表情でジークフリートが吐き捨てる。
「ええ、わかっていますよ••••••ふっ、これで四冊目••••••」
「••••••結局、その本は何なのかね?」
「さぁて、何でしょうね?」
ゲーデの問いを適当に返す。
初めから答える気が無いのだ。
「行くぞ」
ジークフリートはそれを見て、つまらなそうに仲間二人を促す。
「おや、お帰りですか?」
「ああ、じゃあな。いい加減、そのムカつく態度はやめた方がいいぞ。殺したくなるからな。わかったか、ラドゥン」
殺意と共に告げられた言葉に、男ーーギシリヤの公爵貴族、ラドゥン・ニュー・ポイソンは、表情を変えずに、いや、寧ろ笑みを深くした。
「ええ、善処しますよ」
「••••••ふん」
三人が立ち去る。
最後に残ったラドゥンは、ギシリヤの首都、アイギスの方向を見て、薄く笑ったのだった。
次回は視点が秋矢に戻ります。




