No. 120 夏夢
日向夏夢。
オレや真冬の親戚で友達••••••だった女の子。
いつの間にかオレ達の記憶からいなくなっていた大切な人。
こうして思い出してしまえば、何故忘れていたのか不思議でしかない。
夏夢のお母さんとは日本にいた時は、割と会っていた。
国外に仕事に行っているオレや真冬の両親の代わりに保護者として接してくれていた。
その人には娘がいた••••••ということも忘れていた。
夏夢のお母さんも、一度もそんな話をしなかった。
オレに夏夢を紹介したのは、ひとりぼっちの娘の友達になって欲しいとお願いしたのはあの人だったのに。
夏夢の存在が、徹底的に人の記憶から消えていたのだ。
理由はわからない。
何があったのかも覚えてない。
でも、夏夢は今、オレの前にいた。
名前を変えて。
存在も変えて。
それでも、彼女は夏夢に他ならない。
だから、聞きたいことは本人に聞こう。
今は、側にいるのだから。
オレが名前を呼んだ瞬間、リオンーー夏夢は目を見開いて固まった。
夏夢の目の中は、嬉しさと動揺の感情が混ざって揺れていた。
オレは、そっと珍しい表情が見れたなっと思った。
「本当に久し振りだな。いや、実際はここ一ヶ月、いや、もうすぐ二ヶ月か?まあ、その間ずっと一緒にいたわけなんだけどな」
オレの言葉に、夏夢は反応を示さない。
ちなみに、絵面的に今のオレは美少女の顔を無理矢理上げてる変態であるが、こういう状況になることを考えて人が少ない方にさりげなく寄っていたので、騎士団の方々にお世話になるようなことにはならない••••••はず。
こんな街中で、人の視線が完全に無くなることはほぼ無いだろうが、オレは大丈夫だと信じている。
そんな感じでオレが、内心冷や汗をかきながらジッと夏夢の顔を見ていると、ある程度落ち着きを取り戻した夏夢が、やっと口を開いた。
「••••••ああ、本当に久し振りだ。待っていたんだからな、ずっと」
「悪かったな••••••ハンカチいるか?」
「別に私は泣いてないぞ」
そうだな。
泣きそうな顔はしてるけどな。
「でも、さっきも言ったけど、肝心なところは思い出せてない。なんで夏夢が天使になったとか、なんで夏夢のことを忘れていたのかとか、なんでリオンって名乗っているのかとか。そういうのは全然だ。精々、夏夢っていう友達とその思い出の一部くらいしか思い出せてない」
「••••••いや、今はそれでいいんだ。私を思い出してくれただけでひとまずはな。それと••••••」
「なんだ?」
「今の私はあくまでリオンなんだ。二人の時は夏夢でもいいが、それ以外の時はリオンと呼んでくれ」
「え、何で?」
「••••••私にも色々あるんだよ」
目を逸らしながらそう言った夏夢に、仕方ないから頷くオレ。
よくわからないが、まあ、いつか理由を話してくれるだろう。
「ところでさ」
オレは話題を変える。
「なんだ?」
「お前、さっきから口調がティアっぽいぞ」
「青と一緒にされたくないな」
顔を顰めた夏夢を見て、オレは思わず笑う。
それに釣られて、夏夢も笑った。
子供のような、無邪気な笑みで。
今後、二人の時は『リオン』ではなく、『夏夢』の表記になります。




