No. 115 魔法の本
「アルジュナ••••••」
••••••この世界では英雄の名前を持っていたらテロリストにならないといけないルールでもあるのか?
以前会ったジークフリートに続いてまたか、という感想が頭を埋め尽くす。
「この世界だと英雄はテロリストなんだね••••••」
真冬も同じことを思ってるらしい。
素晴らしいジト目をアルジュナに向けている。
「やめろ。そんな目で俺を見るな。いや、わかってるぞ?テロリストと名乗って嬉しがられることは無いだろうし、それが普通の反応だ」
まあ、それもあるが、私たちがこんな目を向けているのはまた別の理由だ。
でも別の世界の英雄のことなんぞ知らんだろうし、口には出さない。
時間の無駄だ。
「一応聞いておくが、神器を置いて立ち去る気は?」
「あるわけねぇだろ。これ、一応仕事だから」
「少女を暴行する仕事とか引くわー」
真冬、やめろ煽るな。
そう思ったが、どうやら相手はその辺はスルーする人物らしい。
アルジュナは、肩をすくめるに留めた。
「それは俺も同感だがな。社畜根性の染み付いた俺としてはリーダーの機嫌を損ねたくは無いのだよ」
「異世界に来てから英雄の株価が暴落してきたよ••••••」
やめろ。
別にこんな連中ばかりじゃないだろう。
他の英雄の名前を持つ者もこんなのと同じ扱いをされるのは可哀想だ。
「てはわけで、この神器を渡すわけにはいかねぇ。どうしても欲しいなら奪ってみろ」
「遠慮させてもらおう。勝つにせよ負けるにせよ、かなりのダメージを受けそうだからな」
今にも飛びたして行きそうな真冬の腕を掴んでそう答える。
物言いたげな真冬には、何もするなと視線を送っておく。
それに対しアルジュナは、満足そうに頷いた。
「そうか。とはいえ、手ぶらで帰るのも可哀想だから、あの本は譲ってやるよ」
あの本、というのはアレだろう。
あの正体不明の謎の本。
「あれが何かを知っているのか?」
「ああ、知っているさ」
何?
思わず眉を顰める。
「どうやって知った?」
「さあ?何故かうちのリーダーが知ってたんだよ。何故かは知らん」
「何の本なんだ?」
「魔法が込められた魔導書だよ。十二冊集めるとあの魔導書に込められた魔法が手に入るって寸法だ。どんな魔法かは知らん」
魔法というのは、魔術の完成形態のようなものだ。
人の手によって完成した限りなく機能に近い魔術。
それが魔法だ。
魔法を習得出来れば、人間としては間違い無く最強クラスの力を手に入れることが出来るだろう。
「••••••聞いておいて何だが、何故それを明かす?それに、それほどのものなら何故私たちに渡すのだ?」
「なに、簡単に言えば俺たちは興味が無いからだ。他にはそうだな、こいつを欲しがってる組織があってな。リーダーからも出来れば協力しろと言われているが••••••ぶっちゃけ、気に入らない連中なんで協力したくない。つまりは嫌がらせだな」
「その組織の手に渡らないようにしているということか」
「そういうことだな。今回は邪魔が入って持ち帰ることが出来なかった••••••って、ことで持ってけ」
そう言ってアルジュナは、足元の神器の少女を抱え、素早く立ち去った。
「逃げ足速ッ!?」
「••••••どちらにせよ追跡は無理だな」
ふぅとため息をつく。
そして例の本を取り出し、見つめる。
魔法は世界の理を塗り替えることも可能な力だ。
それゆえに、魔法を持つ者は神の未来視でも未来を見ることが出来ないほどに、その存在の運命が不確定になる。
無限図書館にこの本が無かったのは、その辺が原因だろう。
存在が不確定な本は、図書館に納められない。
「••••••秋矢。君はこの先、どうなるんだろうな••••••?」
この本の所有者はあくまで秋矢だ。
私たちの中で魔法を習得するとすれば秋矢だろう。
だが、そうなると、秋矢の運命はどうなるのか、私は心配せずにはいられなかった。
次回は視点が戻ります。




