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異世界でカフェを開いただけなのに、なぜか英雄扱いされています  作者: 断捨離
第1章 街外れのカフェ編

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第6話 エルフ店員、爆誕する


 翌日。

 俺は深刻な問題に直面していた。

 忙しい。

 とにかく忙しい。


「黒薬を二つ!」


「こっちは砂糖入りで!」


「店主ー! 追加注文ー!」


「待ってくれ! 腕は二本しかない!」


 開店から一時間。

 すでに店内は満席だった。

 外にも列ができている。

 完全にキャパオーバーである。

 俺は厨房とカウンターを往復しながら、半泣きになっていた。


「いやなんでこんな人気店になってるんだよ……!」


 静かに暮らしたかっただけなのに。

 なぜ毎日戦場みたいになっているのか。

 すると。


「店主、ミルク切れそうです」


 リリアが冷静に報告してきた。


「あとパンも残り少ないです」


「終わった……」


 俺はカウンターに突っ伏した。

 その様子を見て、リリアが少し呆れた顔をする。


「そもそも、店主一人で回そうとしているのが無理なんです」


「でも人を雇う金なんて――」


 そこで、俺は止まった。


 ……いや。

 待てよ。

 今、店の引き出しに入ってる銅貨と銀貨。

 かなり多くないか?

 昨日の売上も凄かった。

 一昨日も凄かった。

 つまり。


「……雇える?」


 俺が呟くと、リリアはこくりと頷いた。


「普通に繁盛店です」


「マジかぁ……」


 異世界転移して最初に成功したのがカフェ経営って、どうなんだろう。

 そんなことを考えていると。


「店主ー!」


 冒険者の一人が手を挙げた。


「おかわり!」


「はいはい今行く!」


 俺は再び動き出す。

 だが。

 途中で、すっと皿が横から消えた。


「……え?」


「それ、私が運びます」


 リリアだった。

 彼女は慣れた手つきで皿を持ち、そのまま客席へ向かう。


「お待たせしました」


「おお、嬢ちゃん助かる!」


「ミルクはこちらです」


「気が利くなぁ!」


 客たちの反応も良い。

 というか、普通に馴染んでいた。


 数分後。

 リリアはまた自然に厨房へ戻ってくる。


「次は何をすればいいですか?」


「いや、なんでそんな即戦力なの?」


「昔、集落でお店を手伝っていたので」


 有能すぎる。

 俺は少し考えてから、真面目な顔で言った。


「……リリア」


「はい?」


「もしよかったら、正式にここで働くか?」


 一瞬。

 リリアの目が丸くなった。


「え……」


「給料はちゃんと払う」


「きゅ、給料……」


「あと、まかない付き」


 その瞬間。

 リリアの耳がぴくっと動いた。


「まかない……」


「いやそこ食いつくの?」


 エルフってもっと神秘的な種族じゃないのか。

 するとリリアは少し俯き、小さな声で言った。


「……いいんですか?」


「むしろ助かる」


「私、めっちゃ働きます!!」


「もう半分店員みたいな動きしてるしな……」

 

すると。

 リリアはふっと笑った。

 いつもの澄ました感じじゃない。

 少しだけ年相応の、柔らかい笑顔だった。


「……では、よろしくお願いします。店主」


「こちらこそよろしく、リリア」


 その瞬間。

 店内の客たちがざわついた。


「おお……!」


「ついに弟子入りか……!」


「黒の賢者が後継者を……!」


「違うから!?」


 なんで雇用が継承イベントみたいになるんだ。

 しかも。


「エルフを従えるとは……」


「やはり只者では……」


「王都でも噂になるぞ……」


「ならないでほしいなぁ!」


 もう手遅れな気がしてきた。

 すると。

 カラン、と扉が鳴る。

 入ってきたのは、見覚えのある人物だった。

 深紅のドレス。

 金色の髪。

 ローゼンベルク侯爵家の令嬢――アリシアだ。

 だが今日は一人だった。

 護衛もいない。


「いらっしゃい」


「こんにちは」


 彼女は微笑みながら席につく。

 そして店内を見回し、少し驚いたように目を細めた。


「……昨日より、さらに賑やかですね」


「もう限界です」


「ですが、皆楽しそうです」


 アリシアの言う通りだった。

 冒険者と騎士が普通に会話している。

 商人が新しい取引の話をしている。

 孤児の少女まで来て、リリアにクッキーを貰っていた。

 いつの間にか。

 この店は、色んな人が集まる場所になっていた。

 アリシアは静かに呟く。


「不思議です」


「何がです?」


「この街は最近、空気が張り詰めていました」


 彼女は窓の外を見る。


「魔物の活発化。治安悪化。貴族同士の対立」


「……へぇ」


「皆、余裕を失っていたんです」


 だが、とアリシアは続ける。


「この店だけは違う」


 店内には笑い声がある。

 温かい香りがある。

 人が落ち着ける空気がある。


「たった一軒のお店なのに」


 アリシアは、まっすぐこちらを見た。


「この街を少し変えていますね」


「……いや、そんな大げさな」


 俺は苦笑する。

 ただコーヒーを淹れてるだけだ。

 だが。

 周囲の客たちは、妙に真剣な顔で頷いていた。


「確かに変わったよな」


「最近、ギルドの空気も悪くねぇし」


「騎士団と冒険者が喧嘩しなくなった」


「ここで顔合わせるからなぁ」


「店主のおかげだ」


「だから違うって!」


 だが。

 そのツッコミは、今日もあまり信用されていなかった。


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