第54話 王城喫茶会、当日の朝
そして。
王城喫茶会の当日がやって来た。
「来ちゃったなぁ……」
朝。
開店準備をしながら、俺は思わず呟いた。
すると。
リリアがサンドイッチを並べながら言う。
「来ましたね」
「来たな」
結局。
あれから準備は順調だった。
中庭の使用許可。
机と椅子の配置。
飲み物と軽食の準備。
王城側の協力もあり、大きな問題は起きていない。
今のところは。
「“今のところ”何も問題が起きていないのが怖いなぁ」
「分かります」
リリアが即答した。
その時。
カラン。
朝の常連たちが入ってくる。
「黒薬を」
「はいよ」
「今日は喫茶会ですね」
「ですね」
文官たちも、どこか落ち着かない様子だった。
いつもより少し早口。
いつもより少しそわそわしている。
すると。
限界文官が席へ着くなり言った。
「緊張します……」
「お前が?」
「王城で喫茶会ですよ?」
「まあそうだけど」
「陛下も来ます」
「主催者だからな」
「侯爵も来ます」
「来るな」
「魔導師長も来ます」
「来るな」
すると。
限界文官が真顔になった。
「胃が痛いです」
「お前が言うと説得力あるな」
店内から笑いが起こる。
その時。
カラン。
入口のベルが鳴った。
「おはよう」
「おはようございます」
国王だった。
もはや誰も驚かない。
すると。
国王はいつもの窓際席へ向かう。
「本当にそこ好きですね」
「落ち着くからな」
即答だった。
最近では、客たちも何も言わない。
ただ、『ああ、陛下の席だな』くらいの認識になっている。
慣れって怖い。
すると。
国王はコーヒーを受け取りながら尋ねた。
「準備はどうだ?」
「一応」
「不安そうだな」
「だって初めてですよ」
王城で喫茶会なんて。
普通はやらない。
すると。
国王は少し笑った。
「余も初めてだ」
「主催者が言うことですか?」
「だから楽しみなのだ」
その言葉に。
少しだけ肩の力が抜けた。
この人。
本当に楽しみにしているらしい。
その時だった。
入口が勢いよく開く。
カランッ!
「大変です!」
「またお前か」
飛び込んできたのは限界文官だった。
「さっきそこにいたよな?」
「いました!」
「だよな?」
限界文官は肩で息をしながら叫ぶ。
「参加希望者が予想の三倍です!!」
店内が静まり返った。
「……三倍?」
「三倍です!」
「そんなに?」
「そんなにです!」
すると。
国王が静かにコーヒーを置いた。
「ほう」
嫌な予感がする。
すると。
限界文官が続けた。
「しかも!」
「しかも?」
「参加者の半分以上が、“喫茶ミナトの常連です”と言っています!」
沈黙。
そして。
俺と国王は同時に思った。
――これは、絶対に普通の喫茶会にならない。




