第52話 王城喫茶会の準備
「それで」
俺は資料を閉じた。
「本当にやるんですか?」
「やる」
国王は即答した。
「即答だった」
少しくらい悩んでほしかった。
すると。
グランベル侯爵が肩をすくめる。
「陛下は決めたら早いのです」
「見れば分かります」
俺だって何となく分かってきた。
この国王。
見た目より行動派だ。
朝に護衛を撒いて喫茶店へ来るくらいには。
すると。
国王が咳払いした。
「撒いた件は忘れろ」
「聞こえてた」
部屋に笑いが広がる。
その時。
一人の文官が手を挙げた。
「開催場所ですが」
「うむ」
「第一会議室を予定しております」
沈黙。
すると。
グランベル侯爵が顔をしかめた。
「それは……」
「どうしました?」
俺が尋ねると。
侯爵は即座に答えた。
「絶対にくつろげませんな」
「そうなんですか?」
「会議室ですからな」
すると。
文官たちも次々と頷き始める。
「会議室ですね……」
「会議室です」
「間違いなく仕事を思い出します」
「そんなに?」
その時。
限界文官が小さく手を挙げた。
「私、あの部屋を見るだけで胃が痛くなります」
「重症だな」
「実際、皆そうだと思います……」
すると。
魔導師長まで腕を組んだ。
「うむ」
「魔導師長も?」
「会議室で休めと言われても無理だな」
満場一致だった。
すると。
リリアが小さく首を傾げる。
「休憩する場所には見えないんですね」
「それだ」
侯爵が大きく頷く。
「せっかくの喫茶会ですぞ」
「なるほど」
「会議室へ入った瞬間、皆仕事の顔になります」
それは少し分かる気がした。
すると。
国王は腕を組んだ。
「ふむ……」
珍しく真面目に悩んでいる。
その時。
限界文官が小さく手を挙げた。
「中庭はどうでしょう」
全員がそちらを見る。
「中庭?」
「はい」
文官は少しずつ説明した。
「王城の中庭は広いです」
「うむ」
「天気が良ければ気持ちも良いです」
「確かに」
「仕事の場所にも見えません」
おお。
それは結構良いかもしれない。
すると。
国王も頷いた。
「悪くないな」
「中庭なら、喫茶ミナトの雰囲気にも近いかもしれません」
リリアの言葉に。
皆が納得したようだった。
その時。
グランベル侯爵がふと尋ねる。
「ところで」
「はい?」
「何を出すのですかな」
「ん?」
「喫茶会ですぞ?」
あ。
そこか。
すると。
部屋の空気が変わった。
文官たちが身を乗り出す。
魔導師長も見ている。
国王まで興味深そうだった。
「黒薬」
「うむ」
「紅茶」
「うむ」
「プリン」
「うむ」
「サンドイッチ」
「うむ」
そこまでは順調だった。
だが。
次の瞬間。
限界文官が恐る恐る言った。
「ふれんちとーすとは……?」
「お前好きだな」
すると。
別の文官が手を挙げる。
「私はプリンを」
「聞いてない」
「黒薬も欲しいです」
「だから聞いてない」
すると。
国王が吹き出した。
「まだ開催もしておらんのに」
「もう楽しみにしているんですよ」
侯爵が苦笑する。
文官たちも気まずそうに笑っていた。
その時。
リリアが静かに呟く。
「店主」
「ん?」
「普通の喫茶会になりそうですか?」
少し考える。
国王。
侯爵。
文官。
魔導師。
そして喫茶ミナト。
嫌な予感しかしない。
「ならない気がする」
「私もそう思います」
だろうな。
そして。
その予感は、きっと当たってしまう。




