第50話 王様からのお願い
――いや、絶対これだけじゃ終わらないだろう。
そんな予感は。
案の定、当たった。
国王が咳払いをする。
「さて」
「来た」
思わず口から漏れた。
すると。
グランベル侯爵が吹き出す。
文官たちも目を逸らした。
皆、分かっていたらしい。
「安心しろ」
「その言葉で安心できたことないんですけど」
すると。
国王は少し困った顔をした。
「そんなに信用がないか」
「王城に呼ばれて報告書を見せられた後ですからね」
「それもそうか」
納得しないでほしい。
その時。
一人の文官が資料を開く。
「陛下」
「うむ」
「説明を」
「頼む」
どうやら本当に何かあるらしい。
文官は一枚の紙を取り出した。
そこには王都の地図が描かれていた。
「……地図?」
「はい」
文官は地図の数か所を指差す。
「こちらが貴族街」
「はい」
「こちらが商業区」
「はい」
「こちらが職人街です」
「うん」
普通の地図だった。
すると。
文官が続ける。
「現在、喫茶ミナトへ来店している客層を調査した結果――」
嫌な予感がする。
「ほぼ全域です」
「ん?」
「王都のどこからでも客が来ています」
「へぇ」
すると。
グランベル侯爵が補足した。
「普通はあり得ん」
「そうなんですか?」
「貴族は貴族の店へ行く」
「なるほど」
「職人は職人の店へ行く」
「ふむふむ」
「商人も同じだ」
確かに。
言われてみればそうかもしれない。
すると。
国王が静かに言った。
「だが、お前の店は違う」
「……」
「皆が同じ場所へ来る」
部屋が静かになる。
そう言われると。
少し不思議だった。
貴族も。
文官も。
騎士も。
商人も。
同じ席でコーヒーを飲んでいる。
俺はそれが当たり前になっていた。
すると。
国王は少し笑った。
「王都で一番身分差が薄い場所かもしれんな」
「ただの喫茶店なんですけど」
部屋のあちこちから笑いが漏れる。
その時。
文官が次の資料を開いた。
「そこで陛下から一つ提案があります」
「提案?」
「お願いと言っても良いでしょう」
国王が頷く。
そして。
俺を見る。
「ミナト」
「はい」
「王城でも喫茶会を開いてみないか?」
「……は?」
一瞬理解できなかった。
すると。
国王は普通の顔で続ける。
「月に一度で構わん」
「いや」
「王城の会議室を貸そう」
「いやいや」
「費用もこちらで持つ」
「いやいやいや」
待ってほしい。
話が飛びすぎている。
すると。
リリアが小さく呟く。
「始まりましたね」
「始まったな……」
俺は頭を抱えた。
やっぱり。
礼を言うだけで終わるはずがなかった。




