第46話 王様、翌日も来る
翌朝。
俺は、いつものように開店準備をしていた。
コーヒー豆を挽く。
パンを切る。
サンドイッチの具材を準備する。
最近は朝営業が定着してきたせいで、以前より早起きになった。
リリアがパンを並べながら言う。
「店主も朝の生活に慣れてきましたね」
「慣れたくなかったけどな」
その時。
カラン。
開店直後のベルが鳴った。
「いらっしゃ――」
言いかけて止まる。
昨日見た顔だった。
フード。
地味な服。
だが隠し切れていない威厳。
「……」
「……」
相手も気まずそうだった。
すると。
リリアが小声で言う。
「店主」
「うん」
「王様ですね」
「王様だな」
国王だった。
昨日に続いて。
普通に来た。
すると。
国王は少し咳払いをする。
「……席は空いているか?」
「普通に聞くんですね」
「満席なら並ぶ」
「並ぶんですか!?」
朝から驚かされた。
すると。
国王は当然のように頷く。
「皆並んでいるからな」
「真面目だなぁ」
王女と似たところがある。
血筋かもしれない。
国王は昨日と同じカウンター席へ座った。
「今日は何にするんです?」
「昨日と同じで良い」
「気に入ったんだ」
「気に入った」
即答だった。
その時。
カラン。
文官たちが入ってくる。
「黒薬を――」
そこで固まる。
「…………」
「…………」
国王と目が合った。
文官たちが直立不動になる。
「お、おはようございます陛下!」
「うむ」
「ご、ご機嫌麗しく……!」
「座れ」
「はい!」
完全に上司と部下だった。
すると。
国王はコーヒーを受け取りながら言う。
「ここでは普通でよい」
「無理ですよ!?」
文官の悲鳴が上がる。
だが。
国王は少し困ったように笑った。
「昨日も言っただろう」
「昨日は突然だったんです!」
「今日は予測できたのでは?」
「予測したくなかったんです!」
店内に笑いが広がる。
国王まで少し笑っていた。
その時。
グランベル侯爵が入ってきた。
「朝会議前に一杯――」
そして止まる。
「……陛下」
「うむ」
「また来られたのですか」
「また来た」
侯爵が頭を抱えた。
「王都で一番偉い方が常連になりそうなのですが」
「やめろ」
国王が即座に否定する。
だが。
その否定は少し弱かった。
すると。
リリアがぽつりと言った。
「でも昨日と同じ席ですね」
「……」
「同じ注文ですね」
「……」
「結構気に入ってますね」
国王が静かに目を逸らした。
図星だったらしい。
その様子を見て。
店内から小さな笑いが漏れる。
王様。
思ったより親しみやすい人かもしれない。
すると。
国王はサンドイッチを一口食べてから、窓の外を見た。
「……不思議だな」
「何がです?」
「ここへ来ると、王都が少し違って見える」
静かな声だった。
「急いでいる者ばかりだと思っていた」
「……」
「だが、皆こうして立ち止まる時間も必要なのだな」
その言葉に。
文官たちが少し照れくさそうに笑った。
その時だった。
入口のベルが鳴る。
カラン。
「お、おはようございます!」
若い騎士が飛び込んでくる。
そして。
国王を見つける。
「陛下!?」
固まる。
店内が静まる。
若い騎士は震えながら言った。
「……あの」
「なんだ?」
「その席……」
「うむ」
「昨日も座ってましたよね?」
「座っていたな」
若い騎士は、恐る恐る言った。
「それ、陛下専用席になってませんか?」
店内が爆笑に包まれた。




