第45話 王様、普通に通い始める
「王様だったの!?」
店内に緊張が走る。
文官たちが立ち上がる。
騎士たちが青ざめる。
限界文官なんか、完全に固まっていた。
「へ、陛下……!」
「も、申し訳ありません……!」
「お忍び中に気づかず……!」
すると。
フードの男――国王は、小さくため息を吐いた。
「だから静かに来ていたのだが」
「いや無理では!?」
王様が普通に朝食を食べている時点で無理である。
その時。
飛び込んできた近衛騎士が、半泣きで叫んだ。
「探しましたよ、陛下!!」
「少し朝を歩いていただけだ」
「護衛を撒かないでください!」
「撒いたんだ……」
王様、だいぶ自由人だった。
すると。
国王は、ゆっくりコーヒーを見る。
「……騒がしくなってしまったな」
「あー……」
せっかく静かな朝だったのに。
店内の空気は完全にガチガチである。
誰も喋らない。
文官たち、直立不動。
すると。
国王が、小さく笑った。
「その顔をするな」
「え?」
「余も仕事前に休みに来ただけだ」
「王様も仕事前なんだ……」
妙な親近感が湧いた。
すると。
グランベル侯爵が、静かに頭を抱える。
「……陛下まで朝喫茶に来られるとは」
「侯爵も来てるじゃん」
「私は常連だ」
「威張ることじゃない」
だが。
国王は、少し楽しそうだった。
「面白いな」
「何がです?」
「貴族も文官も騎士も、同じ店で朝を過ごしている」
「……」
「以前の王都では考えられん」
確かに。
今この店には、
•貴族
•文官
•騎士
•魔導師
が、普通に同じ空間にいる。
しかも。
皆、コーヒー飲みながらぼーっとしている。
妙に平和だった。
すると。
国王は、静かにサンドイッチを食べる。
「……うまいな」
「どうも」
「朝に合う」
その一言で。
周囲の空気が、少しだけ緩んだ。
王様も普通に食べるんだな。
すると。
限界文官が、おそるおそる聞く。
「へ、陛下も……朝はお疲れなのですか?」
「もちろんだ」
国王は即答した。
「朝から報告は多いし、面倒な会議もある」
「王様も大変なんだ……」
「特に最近は、“ぷりん予算”で揉めていてな」
「まだやってたの!?」
店内が吹き出した。
グランベル侯爵が目を逸らす。
文官たちも気まずそうだった。
すると。
国王は、少しだけ笑う。
「だが、悪くない変化だと思っている」
「変化?」
「皆、以前より余裕がある顔をしている」
その言葉に。
店内が静かになる。
国王は、ゆっくり店内を見回した。
「忙しい時ほど、人は余裕を失う」
「……」
「だから、“休める場所”は必要なのだろう」
静かな声だった。
でも。
妙に重みがあった。
すると。
リリアが、小さく呟く。
「……ちゃんと王様なんですね」
「失礼だなお前」
だが。
少しだけ安心した。
この王様。
ちゃんと、この国を見ている。
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