第44話 朝の客、妙に威厳がある
朝営業開始から数日後。
『喫茶ミナト 王都店』の朝は、完全に王都へ定着していた。
カラン。
「黒薬を……」
「はいよ」
カラン。
「今日は甘い物も……」
「今日も死んだ顔だなぁ」
朝の店内には、静かな疲労感が漂っている。
文官。
騎士。
魔導師。
皆、出勤前に少しだけ“人間へ戻る”ために来ていた。
すると。
リリアが、小さく笑う。
「最近、“助かった……”って言いながら入ってくる人、多いですね」
「王都大丈夫かな」
「大丈夫じゃない気がします」
否定がなかった。
その時だった。
カラン。
入口ベルが、小さく鳴る。
「……失礼する」
入ってきたのは、フード付きの男だった。
地味な服。
目立たない格好。
だが。
「……ん?」
なんか妙だった。
普通の客なのに。
空気が違う。
落ち着いているというか。
妙に堂々としているというか。
すると。
奥で黒薬を飲んでいた騎士団員が、ぴたりと固まった。
「……え?」
隣の文官も止まる。
「まさか……」
「どうした?」
だが。
二人とも、慌てて視線を逸らした。
なんだ?
すると。
男は静かにカウンター席へ座る。
「おすすめを頼めるか」
「おすすめ?」
「朝に合うものを」
声は穏やかだった。
だが。
妙に“慣れている”。
人へ指示を出すことに。
すると。
リリアが小さく俺を見る。
「……店主」
「うん、なんか偉そう」
「偉そうというか……偉い人っぽいです」
だよなぁ。
俺は少し考え、
「じゃあ、卵サンドとコーヒーで」
「ほう」
「朝は軽い方がいいし」
「任せる」
その瞬間。
周囲の文官たちが、妙に緊張し始めた。
なんで?
すると。
限界文官が、小声で震える。
「ど、どうするんですか……」
「何が?」
「店主が普通に接客してる……!」
「普通に接客するだろ」
「いやでもあの方――」
その瞬間。
フードの男が、ちらりとこちらを見る。
限界文官、硬直。
「…………」
「…………」
空気がおかしい。
だが。
男は特に何も言わず、静かにコーヒーを飲んだ。
「……うまいな」
「どうも」
さらに卵サンドを一口。
「……ほう」
リアクションが渋い。
でも。
ちゃんと味わっているのは分かる。
すると。
男は、ふっと息を吐いた。
「朝に、こういう時間があるのはいいな」
「……」
「王都は朝から慌ただしい」
「それは感じます」
男は、小さく笑った。
「皆、急ぎすぎるのだ」
その言葉に。
店内の文官たちが、静かに俯いた。
なんか説得力あるなこの人。
すると。
リリアが、小さく首を傾げる。
「……店主」
「ん?」
「あの人、“上に立つ人”ですね」
「やっぱり?」
その時だった。
入口が勢いよく開いた。
カランッ!!
「陛下ぁぁぁぁ!!」
「「「!?」」」
飛び込んできた近衛騎士の叫びで。
店内の空気が凍りついた。
「…………」
「…………」
俺は、ゆっくりカウンターを見る。
フードの男は、静かにコーヒーを置いた。
「……見つかったか」
「王様だったの!?」
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